【のぞき見郵便局】 勤務経験者が語る「富士山頂郵便局の秘密」
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富士山が山開きを迎えたことに伴い、7月10日から8月20日の期間限定で、富士山頂郵便局が開設されました。近年、訪日観光客の登山者も急増している状況で、問題となっているのが弾丸登山や不十分な備えが原因となる事故。なかでも無謀ともいえる軽装や登山には向かない服装の登山者は増加しています。そこで、事故の予防や啓発の意味を込めて、富士山頂郵便局の社員が実際に目撃した「無謀な服装」をファッションショー形式でご紹介します。
富士山頂郵便局の社員は見た!「無謀富士登山ファッション」
今回は一人でも多くの皆さんの目にとまるように、無謀すぎる富士登山をファッションショー形式でご紹介しました。これらは実際に存在した無謀ファッション例です。絶対に真似をすることのないようにしてください。
富士山に登るなら、無謀じゃない、登山に適したファッションを
標高3,776m、富士山山頂までの道のりは、酸素濃度や平均気温は平地よりも低く、天気も変わりやすい過酷な環境。そのため、安全に登るには登山に適した服装や装備が必須です。まずはこれらの装備を用意することが自分の身を守ることにつながります。基本の装備をしっかり覚えておきましょう。
【富士登山に適した基本的な装備】
- レインウェア
- ザック
- 登山靴
- 防寒着(フリース)
- トレッキングパンツ
- 機能性タイツ
- 帽子
- トレッキングポール
- ヘッドランプ
- ショートスパッツ
- 膝サポーター
- アウター手袋
このほかにも、ヘルメットやマスク、サングラス、所持品では携帯用酸素ボンベや行動食、モバイルバッテリーなども用意しておくと安心です。
参照:「富士吉田市観光ガイド」
人材も設備も限られた環境で、臨機応変な対応が求められる現場
ここからは、昨年、富士山頂郵便局で勤務していた中野 裕貴(なかの ゆうき)さんに、富士山頂郵便局での業務や、コロナ禍を経て見られた現場の変化、この地でしか味わうことのできない体験を伺いました。
名古屋赤坪郵便局
中野 裕貴(なかの ゆうき)さん
富士山頂郵便局で勤務する社員は、通常3名。営業時間は午前6時から午後2時までで、窓口では普通通常郵便物の引受、切手の販売、登頂を記念した風景印の押印や登山証明書およびオリジナル商品の販売などを取り扱っています。
「営業開始と同時に次々とお客さまがいらっしゃるので、3人のチームワークを活かして業務にあたります。また、富士山頂郵便局では、屋外に設置しているポストに投函された郵便物を回収して消印を押すという業務もあります。昨年、「富士山頂郵便局の消印が押された郵便物をお客さまに届けたい」と、ある企業の方が来局されて、約3,000枚のはがきをポストに投函されました。ひたすら消印を押し続けたことが、すごく印象に残っています(笑)」(中野さん)
また、富士山頂にあるのは浅間大社と郵便局のみ。そうした特殊なシチュエーションゆえ、困っているお客さまを助けることも富士山頂郵便局が存在する意義だと中野さんは言います。
「困っているお客さまがいたら、とにかく人命第一で対応したいと考えています。本来の業務ではないことであっても、自分たちができることはやって、少しでもお客さまのお役に立ちたいという想いがあります」(中野さん)
コロナ禍を経て、再び世界中から人が訪れる場所に。ここでしか得られない景色と出会いがある特別な郵便局
昨年は新型コロナウイルス感染症が5類感染症へと移行したことで、インバウンドの登山客が急増。富士山頂郵便局にも多くの外国人が訪れたそうです。
「外国からのお客さまが6割ぐらいを占めていた印象です。特に英語が伝わりにくいお客さまの対応は大変でしたね。ボディランゲージも交えたりしながら業務にあたっていました(笑)。今思い返せば楽しかったですが、そこが一番苦労した部分でしたね」(中野さん)
また、印象的なお客さまとの出会いもありました。
「旧東海道を徒歩で旅する80歳の男性が来局されて、たくさんお話しをしました。その方は神戸にお住まいなのですが、後日わざわざ私が勤務する名古屋の郵便局まで訪ねてくださったんです。まさか、神戸から来局いただくなんて思ってもいなかったので驚きましたし、うれしかったです。そんなすばらしい出会いを経験できたのも富士山頂郵便局で勤務したからこそだと思っています」(中野さん)
そして富士山の山頂で勤務しているからこそ見ることのできる景色もあると中野さんは言います。
「河口湖と山中湖を一度に望むことができるのは、富士山頂だけです。あの景色は圧巻でした。あとは夜景も絶景で、天気が良ければ東京方面まで目視することができるんですよ。残念ながら私は見られなかったのですが、河口湖と山中湖で同時間に開催された花火大会を見た社員もいます。これもまた山頂で勤務していなければ見ることのできない景色ですよね」(中野さん)
普段は岐阜県内の郵便局に勤め、今年初めて富士山頂郵便局で勤務することとなった長縄 啓二(ながなわ けいじ)さんにもお話を伺いました。
各務原東(かかみがはらひがし)郵便局
長縄 啓二(ながなわ けいじ)さん
富士山頂郵便局に勤務する社員は、ブルドーザーで山頂へと向かいますが、長縄さんたちが出発した日はあいにくの悪天候。いきなり富士山の過酷な環境を経験することになったと言います。
「雨風がかなり強かったので、ブルドーザーとはいえ登れるのかなと思いましたが、無事に到着できました。ただ、一般の登山者には決して登っていただきたくない天候でしたね」(長縄さん)
取材当日の富士山頂郵便局には多くの外国人登山客も詰めかけ、さまざまな言語が飛び交っていました。そして、その一人ひとりに丁寧に対応する長縄さんの姿が印象的でした。
「まずは、相手の話にしっかり耳を傾けることが大切だと思っています。そうすれば言葉がわからなくても伝わってくるものがあるので。最初は『ウェルカム』とか『サンキュー』などの簡単な挨拶から始まって、あとは気持ちとジェスチャーでコミュニケーションを取っているのですが、意外と何とかなるものですね(笑)」(長縄さん)
今回の長縄さんの勤務期間は5日間。どんな想いで過ごそうとしているのかを聞いてみました。
「せっかくの機会なので『楽しむ』ことを第一に勤務したいと思っています。また、勤務以外の空き時間には、富士山の山頂をぐるっと一周するお鉢巡りなどもできたらいいかなと。楽しみながら、最後までしっかり勤務したいと考えています」(長縄さん)
また、山頂で過ごす時間を楽しむためにも、山でのルールやマナーをしっかり守ることが大切だと言う長縄さん。
「例えば、ゴミや自分が持ってきたものは自分で持ち帰る。これが富士山の自然を守るためにも大事なことだと思いますし、次に登山する人のためにもなります。富士山に来られる方には、こうしたルールやマナーを守ることを徹底していただきたいですね」(長縄さん)
ゴミを持ち帰る、登山に適した服装をするなど、山でのルールやマナーを守ることは決して難しいことではありません。そうしたルールやマナーを守ることが、最終的に富士山の自然の保護や、自分の命を守るといった大きなことにつながってきます。それを心にとめて、安心安全な富士登山を楽しみながら、富士山頂郵便局にお越しいただきたいと願っています。
前回の富士山頂郵便局の記事はこちら