全国の郵便局を起点に温室効果ガス削減を目指す、地域密着型のカーボンニュートラルとは?

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カーボンニュートラルに対する世界的なレベルでの関心が高まるなかで、日本郵政グループによる地域のカーボンニュートラルの実現に向けた実証実験が始まりました。当該プロジェクトにおいて全体統括をしている、日本郵政株式会社 経営企画部サステナビリティ推進室 グループリーダー 内田 英之(うちだ ひでゆき)さんに、実証実験の狙いやポイントについてお話を伺いました。

2050年 カーボンニュートラルの実現に向けた実証実験がスタート

皆さん、最近「カーボンニュートラル」という言葉を耳にすることはありませんか。カーボンニュートラル(炭素中立)とは、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」取り組みのことです(環境省『脱炭素ポータル』より)。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて実質的に「ゼロ」にすることを目指します。

カーボンニュートラルのイメージ図
カーボンニュートラルのイメージ図 出典:環境省ホームページ

2020年10月、日本政府は2050年までに、このカーボンニュートラルを達成することを宣言。それに合わせて、日本の産業全体も脱炭素に向けて取り組みを始めています。日本郵政グループもまた例外ではありません。2021年5月14日に発表した中期経営計画「JP ビジョン2025」において、温室効果ガス排出量を2030年度までに46%削減(対2019年度比)、さらに2050年にはカーボンニュートラルを実現するというチャレンジングな目標を掲げました。内田 英之さんは次のように話します。

「昨今では、お客さまが配達手段を選ぶ際、サービスの質や料金だけでなく、配達にかかるCO2の排出量という点も重要な観点になってきています。これから日本郵政グループがお客さまに選ばれ続ける企業になるためにも、カーボンニュートラル推進は重要な取り組みになってきます」(内田さん)

急速充電器の前に立つ内田さん
急速充電器の前に立つ内田さん

そんなカーボンニュートラルに向けた取り組みの一環として、2021年11月に小山郵便局(栃木県)と沼津郵便局(静岡県)において、郵便局を拠点とした地域のカーボンニュートラル推進の実証実験が始まりました。

小山郵便局
小山郵便局
沼津郵便局
沼津郵便局

EV車両と再生可能エネルギーの導入で温室効果ガス排出量を減らしていく

郵便局に設置する充電設備等を活用した地域のカーボンニュートラル化の概念図
郵便局に設置する充電設備等を活用した地域のカーボンニュートラル化の概念図

さて地域の郵便局は、温室効果ガス排出量の削減に、具体的にどのように貢献していくことができるのでしょうか。大きな要素として挙げられるのが、郵便物や荷物を集めたり届けたりする「集配車両(四輪・二輪)」からの排出量削減です。実はこの集配車両だけで、郵政グループ全体における温室効果ガス排出量の約2割も占めます。「JP ビジョン2025」でも、2021-2025年度の取り組みとして、EV(電気自動車)の導入拡大(軽四:12,000台、二輪:21,000台)を掲げており、今後、小山郵便局と沼津郵便局でも段階的にEV車両への切り替えを進めていきます。この実証実験のなかで検証する内容には、EV集配車両の航続距離をどれだけ延ばせるのかという点が含まれます。

実証実験で使われているEV車両『ミニキャブ・ミーブ』
実証実験で使われているEV車両『ミニキャブ・ミーブ』

「実はEV車両自体は、2019年度から東京都区内や各地の中央都市を中心に導入を進めてきました。一般的に、EVの航続可能距離はガソリン車と比べると非常に短いのですが、都市部においては一日の走行距離が短いので、前日夜にフル充電をすれば一日中走り続けることが可能です。ただ、今後全国の郵便局にEVを配備していくためには、ある程度走行距離の長いエリアでも検証を進めなければいけません。加えて寒冷地におけるバッテリー性能の検証も必要となることから、実証実験の場として小山と沼津の二局を選びました」(内田さん)

四輪車の給電の様子
四輪車の給電の様子
二輪車の給電の様子
二輪車の給電の様子

今回の実証実験では、郵便局にEV車両用の普通充電器のほかに、全国の郵便局で初めて急速充電器を設置します。これによって走行距離の長いエリアでも、一時帰局時などに急速で充電をすることで、従来よりも長い走行距離をEV車両で業務可能になります。しかし、内田さんによると急速充電によって走行距離を延ばすという仕組みは応急処置にすぎず、「今後、より根本的な課題解決に取り組んでいきたい」と意気込みます。

「2021年4月にカーボンニュートラルに向けた推進のパートナーとして東京電力と合同記者会見を開いたのですが、それを見た三菱自動車からうちでも協力できることがある、とご提案をいただきました。今回の実証実験で導入しているEV四輪車も三菱自動車の『ミニキャブ・ミーブ』なのですが、EV車両から走行データや電池残量データなどを随時取得できるようにし、そのデータを分析していくことで、郵便局のEV車両はもちろん、商用EV車両の走行性能向上に取り組んでいただきます。1年365日走り続ける郵便局のEV車両から取れるデータが、今後EVの走行性能を伸ばしていくことを期待します

町中を走行するミニキャブ・ ミーブ
町中を走行するミニキャブ・ミーブ

また実証実験のなかでは、郵便局の電力の再生可能エネルギーへの切り替えという取り組みも行われ、その一環として沼津郵便局には2022年1月以降に太陽光パネルが設置されます。

太陽光発電や蓄電池などの設備導入には高いコストがかかり、ストレージパリティ(蓄電池を導入しないよりも、蓄電池を導入したほうが経済的メリットのある状態のこと)の観点で課題を抱えています。単純にコストをかけてカーボンニュートラルを目指すのではなく、企業として健全な取り組みとしていくためにも、東京電力のサポートも受けながら、使用電力の無駄をなくす「省エネ」も同時に進めていくと内田さんは言います。

郵便局を起点とした地域全体でのカーボンニュートラルを実現

今回の実証実験では「地域との共生」も一つのキーワードです。例えば、郵便局に設置した急速充電器は地域のEV利用者にも開放されていますし、今後EV車両を「動く蓄電池」として災害時に活用できるよう、現在自治体とも調整を進めているそうです。このような、自社の資産を地域に還元しながら、ともに発展していくという考え方は、「お客さまと地域を支える共創プラットフォーム」を目指す郵便局ならではの発想と言えるでしょう。

実証実験開始セレモニーでの、小山市長 浅野 正富(あさの まさとみ)さま
実証実験開始セレモニーでの、小山市長 浅野 正富(あさの まさとみ)さま
沼津市長 賴重 秀一(よりしげ しゅういち)さま
沼津市長 賴重 秀一(よりしげ しゅういち)さま

「例えば地域でEVが普及すればEVの性能向上や価格の低廉化、再生可能エネルギーが一般的になってくれば再エネ供給量の増加、価格低廉化等も期待できます。蓄電池にしても太陽光パネルにしても同じこと。日本郵政グループだけでなく、地域のカーボンニュートラルを後押しすることで、われわれ自身も享受できるものがたくさんあるのだと思っています。そこは地域の方々とWin-Winな関係で一緒に進めていきたいですね」(内田さん)

今後の取り組みとして、日本郵政株式会社の増田 寬也(ますだ ひろや)社長は、今後全国の主要な郵便局でカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めていくと明言しています。

「どれくらいの期間で全国拡大するか、ということは具体的には決まっていませんが、実証実験で得られた結果を活かして、なるべく早く実現したいですね。また今後、全国で取り組みを広げていくなかで、さまざまな企業の方々と協業できれば、とも考えています。既にお話をさせていただいている企業は数社ありますので、お互いにメリットを享受できる形で、地域にも貢献できるよう取り組んでいければと思います」(内田さん)

小山郵便局と沼津郵便局の実証実験は当面の間は実施されるとのこと。地域と連携したカーボンニュートラルの実証実験からどのような成果が生まれるのか。今後の経過報告が期待されます。

※撮影時のみマスクを外しています

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