誰もがいっしょに笑顔で働ける環境づくりを。社員食堂内で障がい者雇用のカフェを運営するかんぽ生命の取り組み
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株式会社かんぽ生命保険の障がい者雇用領域の一つとして、2023年3月、都内の大崎オフィス内に障がい者スタッフが働くカフェがオープンしました。夏からは、店内でパンも焼き上げられるようになり、社員からの人気も上々です。今回は、ダイバーシティ推進室の新井 由美(あらい ゆみ)さん、畑迫 宣秀(はたさこ よしひで)さんにインタビューし、障がい者スタッフが活躍できるカフェ運営への挑戦、障がい者スタッフと働くなかでの気づきや想いについてお話しいただきました。
株式会社かんぽ生命保険 人事戦略部 ダイバーシティ推進室 室長
新井 由美(あらい ゆみ)さん
1984年、当時の郵政省へ入省。郵便局での窓口業務からキャリアをスタートし、かんぽ生命では支店長などを歴任。2020年10月より現職。
株式会社かんぽ生命保険 人事戦略部 ダイバーシティ推進室 上席指導役
畑迫 宣秀(はたさこ よしひで)さん
1982年、当時の郵政省へ入省。郵便局や東京郵政局(当時)で保険の内務事務を約20年にわたり担当し、かんぽ生命では団体管理センター長などを歴任。2022年4月より現職。
障がいの有無にかかわらず、誰もが笑顔になれるカフェをつくりたい
かんぽ生命のダイバーシティ推進室は、「互いの個を尊重し、認め・高め合い、それぞれの役割を果たし、成果を上げることで多様化する社会ニーズに応え、社員・お客さまの満足へとつなげる」という"ダイバーシティ方針"を社内に浸透させるべく、さまざまな活動に取り組んでいます。特に、最近力を入れているのは、障がい者の雇用と定着というテーマ。障がい者スタッフが働くカフェの運営を決めたのも、このテーマに基づくものです。
「カフェ運営を検討したきっかけの一つは、これまで大崎オフィスでカフェを運営してくれていた業者の撤退が決まったことでした。社員の福利厚生を維持するためにも、自前で運営できないか、さらに、障がい者スタッフの雇用の機会にできないかと思い立ったことがはじまりです」(新井さん)
しかし、4名でスタートした「カフェプロジェクトチーム」に、飲食店の運営経験者はもちろんゼロ。加えて、半導体不足の影響で電気工事が進まないという大きなトラブルがあったりと、毎日のように難題が持ち上がったそうです。
「人材採用にも苦労しました。障がい者の雇用促進と安定を目的として設置されている都内の障がい者就労支援センター24カ所を訪問したり、都内20校の特別支援学校に対して説明会を開催するなどして、業務概要や採用計画などをご説明しました」(畑迫さん)
チームが目指したのは「障がいの有無にかかわらず、誰もが笑顔になれるカフェ」。多くの社員が仕事前や休憩時にドリンクやパンを楽しみ、障がいのあるスタッフもイキイキ働ける場にしたい。そんな想いが詰まったカフェは、2023年3月にオープンしました。
「今でも、毎日のように打ち合わせを重ね、スタッフとともに『どうしたら笑顔が増えるか』を考えています。小さなことの積み重ねも大切にして、気持ちのよい挨拶の仕方などもみんなで話し合い、レベルアップしてきました。カフェは接客業なので、利用客の社員とのコミュニケーション機会がぐっと増えます。挨拶してくれたり、『あのパン、おいしかったよ』と声をかけてくれる社員の存在に、スタッフはいつも元気づけられています。カフェというオープンな場で働くからこそ、これまでにないコミュニケーションが生まれていると実感します」(新井さん・畑迫さん)
かかわる誰もが元気をもらえる! スタッフがイキイキと働くカフェ
今回は、そんな誰もが元気になれるカフェ「Eat+Cafe」にお邪魔してきました。人気のコーヒーは、深煎りらしい、どっしりとした濃い味わいが特徴です。
「コーヒー豆は、持続可能な農業基準の認定を受けた農園での生産を証明する『レインフォレスト・アライアンス認証』を得たものを使っています。SDGsの目標達成に貢献できるという点が、採用の決め手でした。カップやストローも紙製のものを用意し、社員にもSDGsの目標達成に意識を向けてもらえたらと思っています」(新井さん)
お仕事中のスタッフの松村(まつむら)さん、若林(わかばやし)さんにも、お話を伺います。
――お二人の「推しパン」を教えてください。
「メロンパンです。リッチな風味のブリオッシュ生地を使っていて、食べる前にレンジで10秒ほど温めると、よりおいしくなります! 社員の皆さんからは、食べ応えのあるウィンナーロール、バリエーション豊富なマフィンも人気です」(松村さん・若林さん)
――働くなかで、やりがいを感じる瞬間はありますか?
「気持ちを込めてつくったパンやマフィンを『おいしい』と言ってもらえると、すごくやりがいを感じます。パンが売り切れたときなどは、また食べてもらいたいとやる気が出ます」(若林さん)
「パンづくりの実習を受けるなかで、自分たちがつくるものでお金をいただくのだと思うと、きちんとした商品をつくらなければという思いが深まりました」(松村さん)
――この先、挑戦したいことはありますか?
「より多くの方においしく食べてもらえるように、クオリティにこだわっていきたいです」(松村さん)
「明るい雰囲気を大切に、今以上に笑顔で接客できるよう頑張ります。社員の皆さんにも、積極的にお声がけしたいです」(若林さん)
スタッフとともに働くことで、ダイバーシティ推進室の社員は「元気をもらっている」と話します。
「食品を扱っているので、衛生面で問題を起こすわけにはいきません。時には厳しく指導する場面もあるのですが、くよくよせずに立ち直って元気に働いてくれますし、褒めると素直に喜んでくれます。その素直さを、私も見習いたいです」(畑迫さん)
「スタッフのみんなは、例えば、私の服装を見て『今日のお洋服、色が綺麗!』などと感じたことを素直に表現してくれます。私にとって、カフェは心がうるおうオアシスのような場所になっています」(新井さん)
障がいを個性の一つととらえ、誰もが働きがいのある環境づくりを
カフェがオープンして数カ月。大崎オフィスの社員からの反応はもちろん、カフェの存在を知った別のオフィスや支店に勤める社員からも、大きな反響がありました。
「『スタッフの頑張る姿を見て、自分も励みになった』『障がいのある社員が同じ会社で働けていることを誇りに感じた』『さまざまな課題の解決になるのがすばらしい』『大崎オフィスに行ってみたい』といったご意見をいただきました」(畑迫さん)
「『やっぱり、自販機ではなく人と会話しながら買い物をしたい』といった声も印象的でした。ほんの少し言葉を交わすだけでも、人と人とのつながりを感じられますよね」(新井さん)
一方、カフェ運営という社内初の試みは、難しさもあると語ります。
「検討段階だけでなく、運営が始まってからも、さまざまな確認事項、整理事項が次々と出てきます。難しいことや苦しいことも多いですが、確認したり整理しなければならないことが多いということは、それだけ挑戦的な取り組みだということです。今回の経験を活かし、ゆくゆくはこの取り組みを拡げていけたら、社内の笑顔がいっそう増えると信じています」(新井さん)
ダイバーシティ推進室では、カフェ運営以外にも、障がい者雇用の促進、障がい者スタッフの定着を目指した取り組みに力を入れています。
「全国の各エリアには『障がい者雇用促進リーダー』を置いています。エリア内で働く障がいのある社員と対話し、働くうえでの相談に乗るなどの役割を担っています。」(新井さん)
「社員の声を受け、2022年からは障がいの種別ごとの『座談会』を開催しています。2023年7月には、全国の拠点で働く聴覚に障がいのある社員が集まって、手話通訳も入れながら交流を深めました。業務での悩みを相談したり、工夫を共有したりといった話を、各エリアの『障がい者雇用促進リーダー』にも聞いてもらいました。障がいのある社員同士の交流の場として今後も継続していきたいと考えています」(畑迫さん)
最後に、今後の展望についても伺いました。
「今は『障がい者であること』を条件に、障がい者採用を行っています。しかし、目指す理想としては『採用した社員のなかに障がいのある社員もいた』という状態だと思うんです。DXの推進によって、たとえ障がいがあってもできることが増えてくるはずです。誰もが当たり前にいっしょに働ける、そんな未来を目指して、自分のできることに取り組んでいきます」(新井さん)
「今後、自分や仲間が、病気やケガで障がい者となる可能性も十分ある。そんなとき、誰もが受け入れられ、働きやすい環境が整っていれば、働き続けるという選択肢が生まれます。ダイバーシティ推進室で働き始めてから、障がいがあってもなくても、いっしょに働けるんだと心の底から理解できました。この感覚をより多くの方に体感していただけるよう頑張っていきます」(畑迫さん)
「障がいも、個性の一つ。誰もが、自分とは全く違う人生を生き、考え、行動しています。個性豊かな人たちと学び合い、みんなで笑顔になっていきたいと思っています」(新井さん)
障がいも、人それぞれが持つ個性の一つ。まずは、一人ひとりの個性をしっかり理解して受け入れる。そして、みんながいっしょに笑顔で働ける環境づくりに取り組んでいきたいと語るお二人。今後のカフェの展開はもちろん、日本郵政グループのダイバーシティの取り組みに注目です。