未来の物流レボリューションVol.5 スペック向上! 物流専用の新型ドローン「JP2」開発秘話

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2016年よりドローンによる配送実用化に向け、さまざまな取り組みを行っている日本郵便株式会社。2024年3月には兵庫県豊岡市で、株式会社ACSLと共同開発してきた物流専用の新型ドローン(通称:JP2)による、補助者なし目視外飛行(レベル3.5)での配送トライアルが実施されました。
従来機と比べた際の新型ドローンの特徴や、今後の展望について、日本郵便株式会社 郵便・物流事業統括部 P-DX推進室 課長の福井 誠也(ふくい せいや)さんにお話を伺いました。

福井 誠也(ふくい せいや)さん

日本郵便株式会社 郵便・物流事業統括部 P-DX推進室 課長

福井 誠也(ふくい せいや)さん

2010年、郵便事業株式会社(当時)に入社。eコマースと物流をテーマとした新規部署の立ち上げにかかわる。2019年からは物流テクノロジーの潮流を追うべく、アメリカのシリコンバレーに駐在。2022年に帰国し、オペレーション改革部(現:郵便・物流事業統括部)に配属となり現在に至る。

航続可能距離と最大積載重量が約3倍に向上

――今回の配送トライアルで使用した新型ドローン「JP2」の開発経緯について教えてください。

福井:日本郵便では、2016年よりドローン配送の実現に向けた取り組みを行っています。ドローンにかかわる国の法律が段階的に施行されていくのに合わせ、われわれも飛行形態の高度化を徐々に行ってきたというのが、これまでの歴史です。

福井 誠也(ふくい せいや)さん

これまで、配送トライアルには、事業提携をしている株式会社ACSLさんより提供を受けた「PF2」という機体を使用していました。PF2は荷物配送だけでなく、撮影や農薬散布などさまざまな用途に使える汎用機です。そのため、物流に特化した専用機がつくれないかという想いもありました。ACSLさんと開発要件を話し合い、サイズをギリギリまで大きくし、航続距離も伸ばして、より物流に適した機体となるスペックを追求していくこととし、2019年より本格的に物流専用の新型ドローンの開発がスタートしました。

――JP2のスペックについて教えてください。

福井:大きな特徴は、航続可能距離とペイロード(搭載可能な荷物の重量)が大幅に増加したことです。JP2の航続可能距離は直線距離で約35km、ペイロードは4.5kg、いずれもPF2のおよそ3倍です。郵便局を拠点にドローンを飛ばすというのが私たちの基本的なオペレーションですので、航続可能距離が伸びればより広いエリアを対象に荷物を届けることができます。また、積載能力が上がれば、より重い荷物を運ぶことが可能となります。

画像の代替テキスト

――PF2と比較して、新型ドローンJP2はほかにどのような点が進化していますか?

福井:ドローンの性能をはかる一つの指標として、さまざまな気象状況に耐えうる能力、「耐候性能」というものがあります。例えば風ですね。ドローンは飛行機のように大きくないので風の影響をとても受けやすいんです。そのため空気抵抗を減らすために、機体を「流線型」のデザインとしました。また流線型とすることで、機体に対する風圧が低くなり、バッテリー消耗の低減にもつながるため、航続距離が向上します。

また、耐雨性能も向上しています。従来のPF2は荷物を機体の底に剥き出しの状態で取り付けていましたが、JP2の機体はボディをカウル(ドローンの頭上部分の外装パーツ)で全部覆い、そのなかに荷物をしまえるようにしています。さらに実際の運用を想定して、荷物の搭載の仕方も変えました。PF2では、荷物を機体の下に潜り込ませて取り付けるという作業が必要でしたが、JP2はカウルの上部がパカっと開いて、簡単に荷物を搭載できるようにしました。

JP2
JP2では機体上部からの荷物の搭載が可能に

――開発にあたって苦労されたことはなんでしょうか。

福井:私たち物流会社からすると、航続距離ももっと伸ばしたいし、積載能力ももっと高めたいのですが、すべての希望を実現できるわけではありません。航空法上、ドローン本体と搭載する荷物の合計が25kg未満という制約がありまして、その範囲内に収まる形で部品や素材を選んでいく必要が出てくるわけです。

福井 誠也(ふくい せいや)さん

妥協できるところ、できないところを見極めながら、開発のシナリオのなかで何度もACSLさんと擦り合わせて、ブラッシュアップを繰り返していく。その工程がとても大変でしたね。

「社会的受容性」が必要

――実際にJP2を飛ばしてみて、周囲の反響はいかがでしたか。

福井:兵庫県豊岡市では、昨年から従来のPF2を用いて何度か配送トライアルをしていたのですが、今回は以前にも増して、地域住民の方々から好意的な反応を得られたような気がします。

兵庫県豊岡市にある出石郵便局を出発し、配達先を目指して飛行するJP2
兵庫県豊岡市にある出石郵便局を出発し、配達先を目指して飛行するJP2
配達先である唐川公民館に到着し、荷物を切り離すJP2
配達先である唐川公民館に到着し、荷物を切り離すJP2

当初、ドローンが荷物を運ぶということに対して、地域住民の方々から懐疑的なご意見もありました。住まわれている地域の空をドローンが飛ぶわけですから、「安全なのか」と心配する声が出るのは当然のことだと思います。私たちは、「社会的受容性」、つまりドローンのような新しいサービスを推進していくうえで、社会に受け入れてもらうことが特に必要なことだと思っています。何度も地域に足を運んで、説明会を開いて、実際の機体をご覧いただいて、一つひとつの疑問にお答えしてと、地域住民の方々にご理解いただくための取り組みをしてきました。

――今回は、これまでのトライアルのときにも増して、地域住民の方々から好意的に受け入れてもらえたんですね。

福井:今回のJP2は、機体のカラーをいわゆる「ゆうせいレッド」に仕上げたので、当社のドローンだと認識してもらいやすくなりました(PF2はホワイト)。そして機体のデザインも、丸みがあり柔らかいデザインに仕上げていただいたので、そうした点も地域住民の方々に受け入れてもらえた理由の一つになったのかなと思います。また、ドローンの飛行音がPF2よりも静かになったので、その点も地域住民の方から好評でした。

「配送の高度化」を推進して、新しい物流のあり方を模索したい

――福井さんにとって、今回の物流専用の新型ドローン開発は、どのような取り組みですか。

福井:ドローン配送の事業開発に携わっていると、まわりの方から「夢があるね」と言っていただけることが多くて、それがすごく励みにもなっていますし、楽しみながら取り組んでいます。ときには「遊んでいるみたいで楽しそう」という声もいただくのですが(笑)、先ほどもご説明したとおり、実際にしていることは、毎日神経をすり減らしながら交渉を重ね、一つひとつ地道に試行錯誤を積み上げていくという泥臭い作業の繰り返しなんですけどね。

福井 誠也(ふくい せいや)さん

新しい挑戦には試行錯誤や失敗がつきものです。最初から高い完成度を目指さなければいけない、絶対にミスをしてはいけないという意識にとらわれてしまっては挑戦できません。私たちのドローン配送への挑戦、そして一つひとつの成功の積み重ねが、日本郵政グループ全体の挑戦への機運をより高めることにつながればうれしいですね。

――ドローン配送の、今後の展望について教えていただけますか。

福井:JP2は、本年度中に国土交通省へ型式認証※を申請する予定で準備を進めています。レベル4(有人地帯での補助者なし目視外飛行)まで対応できるようになってきたことで、いよいよドローン配送を実施する下地が整ったという段階まで来たといえます。

※ 無人航空機の強度、構造および性能について検査を行い、機体の安全性を確保する認証制度

注記の参照 「無人航空機レベル4飛行ポータルサイト」
https://www.mlit.go.jp/koku/level4/certification/

福井 誠也(ふくい せいや)さん

一方で、ドローンだけでは解決できない課題もあります。私たちは、ドローン配送に加え、配送ロボット、自動運転車といったテクノロジーを用いた「配送の高度化」に取り組んでいるのですが、これまでの配送方法にそういったテクノロジーを組み合わせながら、これからも新しい配送のあり方を模索していきたいと思います。

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