風化サンゴから生まれた壁材を使用! 子どもたちといっしょにつくる、環境・地域・人にやさしい郵便局

風化サンゴから生まれた壁材を使用! 子どもたちといっしょにつくる、環境・地域・人にやさしい郵便局

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環境に配慮した局舎として、那覇市から島尻郡南風原町に移転・新設した那覇東郵便局。8月末日には、地域の子どもたちが参加した「サンゴの塗り壁 左官ワークショップ」が開催され、局舎づくりのお手伝いをしました。 今回はその様子をレポートするとともに、建築に携わった日本郵政建築株式会社の担当者に、新しい局舎に込めた想いを伺いました。

日本郵政建築株式会社(※)
技術統括本部 建築設計部

波多野 弘和(はたの ひろかず)さん(一級建築士)

2014年、日本郵政株式会社入社。本社の施設部にてデータセンターや保育所の設計を担当した後、2018年より首都圏施設センターで郵便局の設計に携わる。その後2019年に再び施設部に配属となり大規模複合施設の設計を担当して現在に至る。那覇東郵便局の新設では、サステナビリティ推進の企画提案およびデザインを担当。

日本郵政建築株式会社(※)
九州支社 技術部

小林 陽一(こばやし よういち)さん(一級建築士)

2012年、日本郵政株式会社入社。首都圏施設センターで郵便局の基本設計などを手がけたほか、逓信病院などの改修の工事監理も担当。その後、近畿施設センターを経て現在に至る。那覇東郵便局の新設では、基本設計から工事監理までを手がける。

※日本郵政建築株式会社は、日本郵政グループの施設に関する企画支援、設計・工事監理などの業務を行う会社として2024年4月1日に設立。日本郵政株式会社の当該業務を会社分割により移管した後、2024年7月1日から業務を開始しました。

地域の子どもたちが左官に挑戦! サンゴの塗り壁ワークショップ

8月末日、完成間近の那覇東郵便局に続々と入ってきたのは、大勢の子どもたちと保護者の皆さん。郵便局で初めての開催となる左官ワークショップに挑戦していきます。
左官ワークショップは、以下の3つの工程で進みます。

【1】左官を知ろう
【2】アートづくりで練習
【3】郵便局の壁を塗ってみよう

会場には「ぽすくま」も駆け付けて子どもたちをお出迎え

4つの班に分かれて左官ワークショップがスタート。初めての体験に、子どもたちはみんな真剣な表情です。

【1】左官を知ろう

左官職人が、壁に見立てた板に左官材を塗り、子どもたちにコツを伝授

左官とは何か、どんな道具や材料を使って壁を塗るのかを学びます。郵便局の建設に携わる左官職人が、実際に使っている道具でお手本を見せると、子どもたちは興味津々の様子。

風化サンゴからできている左官材。サンゴには小さな空気を通す穴が開いているので、においや湿気を吸ったり吐いたりする効果がある

壁に塗るのは、沖縄県の風化サンゴからつくられた環境と人にやさしい左官材。風化サンゴとは、海中に生息していたサンゴが死滅した後、風や波などの自然の力で風化したものを指し、建築材料、土壌改良材、健康食品などに活用されています。

【2】アートづくりで練習

郵便局の壁を塗る前に、"塗る"工程を楽しむアートづくりで実践練習です。小さなコテを手に、アートづくりがスタート。

色塗り作業に集中する子どもたち。寒水石(かんすいせき)という石を細かく砕いてペンキを混ぜ合わせたもので着色していく(画像右下)

思い思いの色を選んで塗ったら個性たっぷりのアートが完成! みんな初めての体験でしたが、できあがりに満足そうな表情を浮かべていました。

「イルカのくちばしとか小さい部分を塗るのが難しかったけど、面白かった。おうちのリビングに飾るんだ!」(小学4年生)といった感想が寄せられました。

「じゃりじゃりした絵の具は初めてだったので工夫しながら塗りました!」

【3】郵便局の壁を塗ってみよう

塗る工程に慣れたところで、いよいよ郵便局の壁をみんなで塗っていきます。ヘルメットをかぶり、気分は左官屋さん!

「ゆうゆう窓口」になる予定の部屋などを塗っていきます
子どもたちでは手の届きにくい壁の上部は、保護者の方がお手伝い

「粘着性があるので難しかった。職人さんはすごいなと思いました!」(小学4年生)、「泥の感触が手のひらに伝わってきて面白かった!」(小学5年生)と、みんな初めての作業を楽しみました。

「なかなかない機会なので参加しました」と、お父さんの誘いで家族と親戚で参加。みんなで塗った壁を前にピース

ワークショップのあと、保護者の皆さんから多くの感想をいただきました。

好きな色で子どもたちもワクワクしながら作業している様子がよかったです

普段ふれることのできない体験ができて、子どもたちのよい思い出になったと思います

サステナビリティについて学べ、子どもたちにとってよい経験になりました

開局後にまた、施工した壁を子どもたちと見に訪問したいと思います!

郵便局の取り組みなども知れて、サンゴの塗り壁ワークショップもとてもよかったです

地域の子どもたちの手によって完成に近づいた那覇東郵便局。左官ワークショップを終えて、日本郵便株式会社 沖縄支社の玉城 政典(たましろ まさのり)さんと、那覇東郵便局 局長の崎原 秀雄(さきはら ひでお)さんにお話を伺いました。

日本郵便株式会社 沖縄支社 郵便・物流部 課長

玉城 政典(たましろ まさのり)さん

玉城:日本郵便と南風原町とは「災害発生時における南風原町と那覇東郵便局の一時避難場所に関する協定書」を締結しました。那覇東郵便局は、緊急に避難を要する地域住民などを一時的に受け入れる拠点となります。平時は、子どもたちが手がけた塗り壁が、気軽に郵便局に足を運んでもらうきっかけになればと期待しています。

那覇東郵便局 局長

崎原 秀雄(さきはら ひでお)さん

崎原:左官ワークショップは初めての経験でしたが、子どもたちの笑顔を見て、やってよかったと感じました。左官の貴重な経験は子どもたちにとっていい思い出になったでしょうし、郵便局が完成したら、塗ったところをぜひ見に来てほしいですね。左官ワークショップを通じて、子どもたちにとって郵便局が身近な存在になればと思います。これからも地域に愛される郵便局を目指します。

サステナブルな工夫がいっぱい! "環境・地域・人にやさしい郵便局"を目指して

那覇東郵便局の設計・工事監理を担当し、左官ワークショップを企画した日本郵政建築株式会社の小林さんと波多野さんに、那覇東郵便局の特長や設計のこだわりなどについて伺います。

――まずは、ワークショップを振り返って感想をお聞かせください。

小林:なにより、子どもたちが楽しそうに取り組んでいる姿が印象的でした。

波多野:私も同じで、子どもたちが楽しそうに体験する姿を見て、本当にうれしかったですね。少し大げさかもしれませんが、郵便局の一部をいっしょにつくるだけじゃなくて、地域と郵便局との絆をつくる時間のように感じました。

子どもたちにアート用のボードを配る小林さん(中央)

――郵便局として、これまでにないワークショップだったと思います。開催の目的について教えてください。

波多野:はい。これには2つの目的があって、1つは、地域の方々と郵便局、ひいては日本郵政グループとのつながりを強めることです。もう1つは、郵便局が行っているサステナビリティ推進の取り組みを発信することです。今回のワークショップは地域の方だけではなく、局舎完成後にここで働く社員にも参加していただきました。地域や社員の皆さんにワークショップを通じて郵便局に愛着を持ってもらうことで、建物を長く大切に使い、長寿命化を図るという意味でサステナビリティの取り組みの1つになると捉えています。

――壁材に「風化サンゴ」を選んだ狙いはなんでしょうか。

波多野:サステナビリティのテーマであるCO2排出量と生物多様性に関係しています。風化サンゴは沖縄で調達できるので、輸送距離が短くなることに伴って輸送時に排出するCO2を抑えられます。また、サンゴの壁材を製造している建材メーカーさんが、売り上げの一部をサンゴの植樹活動に充てていたことにも共感しました。

――サステナビリティの点でも優れた壁材なんですね。那覇東郵便局は、郵便局として初めてZEB化をした建物だと聞きました。"ZEB(ゼブ)"について簡単に教えてください。

波多野:ZEBとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略称で、断熱や日射遮蔽による熱負荷低減や高効率設備などによる省エネルギー、太陽光発電などによる創エネルギーによって、年間の一次エネルギー収支をゼロに近づけた建物のことです。言い換えれば、環境にとてもやさしい建物のことを指します。

サステナビリティへの取り組みについて、子どもたちにもわかりやすいように解説する波多野さん

――ZEB認証にはいくつかのランクがあるようですね。

波多野:達成度に応じて4つのランクがあって、那覇東郵便局は約68%の省エネ、約13%の創エネ、合わせて約81%の一次エネルギー削減で、「Nearly ZEB」という上から2番目のランクを達成しています。

――「環境」にやさしい那覇東郵便局は、「地域」と「人」にもやさしい郵便局でもあります。その理由は、それぞれどこにありますか。

波多野:まず「環境」についてですが、この建物自体をZEBにすることで、郵便局を運用するエネルギーがとても少なくて済みます。建物内部には、製造時や廃棄時のCO2排出量が少ない内装材を積極的に使用しています。また、廃棄物削減の取り組みとして、使用済みはがきを素材の一部に用いた窯業系の建材を窓口の一部の壁にアクセントとして採用しています。この建材には、日本郵便の社員や私たち設計者が持ち寄ったはがきを使用し、南風原町(はえばるちょう)の伝統的な織物技法である南風原花織と切手をモチーフにしたデザインをプリントしました。

素材の一部に使用済みはがきが用いられた壁

――「地域」に対してはいかがですか。

波多野:花ブロックや琉球石灰岩、琉球ガラスといった、沖縄特有の建築材料を採用しているのと、敷地内にはソテツや南風原町が産地のストレリチアといった沖縄ならではの植物を植え、地域の生態系に配慮しています。

夏季の日射や視線を遮りながらも通風を確保する「花ブロック」をはじめ、琉球石灰岩や赤瓦など、地元の建材を積極的に使用

――それが設計のこだわりにもつながっているのですね。

小林:そうですね。那覇東郵便局が建つ場所は、もともと森のような空間の土地でした。南側には住宅があり、高さ制限もあります。そこで、周辺地域に圧迫感を与えないよう、親しみが持てる外観の建物を意識して設計しました。

――沖縄らしい意匠や植物があふれていますね。災害時には、地域住民などを受け入れる拠点になると聞きました。具体的にはどんな設備があるのでしょうか。

小林:災害時には、那覇東郵便局の窓口と外構の一部を一時避難所として提供します。太陽光発電設備と蓄電システムを活用して、地域の電力供給が止まってしまった場合でも一定時間使用できる空調や照明、充電用のコンセントなどを備えています。さらに、マンホールの上にセットするだけで使用できるトイレも準備しています。

太陽光パネルで発電した電気を蓄電池に貯めておき、停電時に使用。「ゆうゆう窓口」を一時避難場所として提供する

――とても心強いですね! それが「人」にもやさしい理由の1つですね。

波多野:はい。さらに、お客さまへよりよいサービスを提供するために、那覇東郵便局で働く社員の方々の満足度を向上させることにも力を入れました。いわゆるWell-being(ウェルビーイング)です。社員の快適性や健康に配慮した内装とし、社員が使用する休憩室にはフェイクグリーンや自然が感じられるアースカラーのタイルカーペットを採用し、リラックスできる空間に仕上げました。

移転・開局セレモニーも開催。11月5日に那覇東郵便局の新局舎が完成!

ワークショップの開催から約2カ月後に、那覇東郵便局の新局舎が完成。11月5日には、来賓として南風原町長、同町議会議長、地域の自治会長などを迎え、移転・開局セレモニーが盛大に行われました。

セレモニーには来賓をはじめ、マスコミ各社、「ぽすくま」も駆けつけてお祝い

サステナブルな工夫が詰まった那覇東郵便局をご紹介します。

周辺地域になじむ設計を大切にした3階建ての建物で、敷地内には南国の植物が日差しを浴びていきいきと葉を伸ばす
屋上には太陽光パネルを設置。太陽光発電設備と蓄電池設備によってエネルギーの自立が可能に(左)。社員の休憩室は、琉球畳を囲むようにフェイクグリーンを配し、リラックス空間を演出(右)
お客さまが足を運ぶ「ゆうゆう窓口」の入口では、沖縄の守り神・シーサーがお出迎え(左)。ワークショップで子どもたちが壁の一部を塗った空間も完成!(右)

局長の崎原さんは、「すばらしい設備の建物に感銘を受けています」と、感激した様子。セレモニーでは、地域の自治会長から、災害時に建物の一部が一時避難場所として活用できることに感謝するとの言葉があり、郵便局に対する地域の期待が高まっています。

「"地域にやさしい、環境にやさしい、災害時に地域の方々の一時避難場所"として、地域に根差した郵便局を目指して取り組んでいきます」(崎原さん)

日本郵便は、那覇東郵便局のような取り組みを今後も推進し、郵便局のネットワークを活用して、さらなる地域のカーボンニュートラル化の推進に貢献していきます。

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