私のオンとオフ スイッチインタビュー 二つの世界を生きる「戦う保健師」。その理想の姿とは

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約24,000ある郵便局をはじめ、全国で働く日本郵政グループの社員。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。今回話を聞いたのは、九州郵政健康管理センターの宝珠山 桃花(ほうしゅやま ももか)さんです。保健師を務める一方、総合格闘技の世界に入り、指導者としても活動しています。その活躍の様子とオンとオフの意外な共通点に迫ります。

日本郵政コーポレートサービス株式会社 九州郵政健康管理センター 保健師
宝珠山 桃花(ほうしゅやま ももか)さん
2017年、当時の福岡逓信病院に入職し、循環器内科病棟所属の看護師として従事。保健師に転職し、2019年4月より現職。
健康的な日常生活を、住み慣れた場所で送ることの手伝いをしたい
――まず保健師とはどのような職務なのか、看護師との違いも含めて教えてください。
宝珠山:看護師は医師の指示のもと、病気やけがの治療・処置を行いますが、保健師は予防医療に携わる職務になります。病気になる前段階の"目に見えない将来的な病気"の予防を図るほかに、一人ひとりが健康的な生活を送るための健康教育を行っています。

――保健師になろうと思ったきっかけは何でしたか。
宝珠山:保健師になる前は看護師として働いていました。病棟で勤務していると、入院されている皆さん、やはり病状が進むにつれて「家に帰りたい」と口にされていて......。住み慣れたご自宅や地域で、健康的な日常生活を送ることを少しでも長く続けられるお手伝いがしたいという想いから、保健師に転職しました。
――現在担当されている業務内容を教えてください。
宝珠山:保健所や市民センターなどに勤務する保健師とは異なり、私は「産業保健」と呼ばれている分野の業務に就いています。日本郵政グループで働く社員の健康管理を担っていて、健康診断のほか、健康相談や保健指導、依頼があれば健康教育の講師を務めることもあります。
健康相談や保健指導は基本的に郵便局に出向いて対面で行っていますが、コロナ禍をきっかけに、健康管理センターでもICT(Information and Communication Technology:医療分野での情報通信技術)を活用するようになったので、今では遠方の方とも画面越しにお話しすることができて、幅広いサービスを提供できるようになりました。

――健康管理を指導する立場として、どのようなことを心がけていますか。
宝珠山:何よりも信頼関係を築くことですね。限られた時間のなかで、1回の面談で課題が解決することはほとんどありません。だからこそ健康相談も保健指導も次につなげることがベストです。「次も相談に来よう」と思ってもらえる信頼関係を目指しています。
――仕事のやりがいを感じるのはどんなときですか。
宝珠山:「相談に来てよかった」という言葉をかけられたときや、治療につながったときはやりがいを感じます。社員の皆さんにとっては耳の痛い話をすることが多いのですが、「ちゃんと病院に行きます」といった言葉をもらえると、心のなかでガッツポーズをしちゃいます(笑)。

――それはうれしいですね。保健師として、どのような想いで業務にあたっていますか。
宝珠山:「社員とその家族、かかわるすべての人が、いつもどおりの日常を過ごしていけるように」という気持ちです。これまでの業務や、格闘技を通しても感じることですが、いつもどおりの日々が続くことは、当たり前のように見えて実はすごいことです。だからこそ、自分自身を大事にしてほしいという想いで業務にあたっています。
フィットネス目的で道場通い。リングに立ちたいとプロを目指す
――修斗(しゅうと)との出合いや道場へ所属した経緯について教えてください。
宝珠山:2017年に病院で勤務していたころ、ダイエットのために総合格闘技の道場に入門しました。女性向けのフィットネスクラスで、サンドバッグを叩いたりミットにパンチしたりと、週に2日くらいのゆるい感じで通い始めました。
――総合格闘技に興味はあったんですか。
宝珠山:いいえ、当時はまったく興味がなかったんです。入ったところがたまたま修斗のオフィシャルジムだったというだけで、修斗のこともまったく知りませんでした。

――そうなんですね、フィットネスがきっかけとは驚きです! 本格的に選手を目指した理由は何でしょうか。
宝珠山:道場に入門後まもなくして、当時在籍していた女性プロ選手の応援に行こうと誘われて試合を生で観たのがきっかけです。 いつも目の前で必死に練習していた人がスポットライトを浴びて戦っている姿を目の当たりにして、「すごい! 私もリングに立ちたい!」と感動して、選手を目指すことにしました。
――改めて、修斗はどういった格闘技か教えてください。
宝珠山:修斗は、初代タイガーマスクとして知られる佐山 聡(さやま さとる)さんが創設した団体で、日本生まれの総合格闘技です。アマチュア修斗選手権という、高校野球でいうところの甲子園的なものがあって、地方大会を経て全国大会に進みます。そこで優勝もしくはプロ相当の技術を評価されるとプロに昇格できます。私は、2019年度の九州選手権を経て全国大会で優勝し、プロに昇格しました。

――格闘技を初めて行ったときのことは印象に残っているのではないでしょうか。
宝珠山:はい、とにかく「怖い」という感情しかなかったです! でも、選手として試合に出るのであれば、絶対に勝ちたいと思いました。格闘技のデビュー戦はキックボクシングだったんですが、勝利という目標を目指したら"怖い"から"楽しい"に変わっていきました。それから、道場の代表を務める先生に「MMA(総合格闘技)クラスにも来てみないか?」とすすめられ、修斗をやるようになりました。
――普段の練習について、トレーニング内容や頻度を教えてください。
宝珠山:練習は毎日やろうと決めているので、週7日です。平日は仕事を終えてから自宅で食事をして、少し仮眠をとってから道場に行きます。基礎練習や技練習をしてからスパーリングや筋トレを行います。朝は、ランニングや筋トレなどで30分ほど汗を流してから出勤しています。

――毎日練習しているとはストイックですね! 直近の戦績を教えてください。
宝珠山:12戦5勝5敗2引分けと、まだまだ伸びしろばかりです(笑)。今(2025年1月時点)、世界ランキング1位なのですが、修斗ではランキングとは別にチャンピオンが存在するので実質2位ですね。すぐに順位が上下する世界ですし、油断せずに精進します。

――プロに進むことができたのは、どうしてだと思いますか。
宝珠山:シンプルに楽しいですし、修斗が好きなんだと思います。もともと飽き性なのですが、人生でここまでのめり込んでできたのは修斗が初めてです。自分に合っていることもありますが、一番は周囲の支えのおかげだと感じています。職場では「無理せんでいいっちゃけんね(無理しなくていいからね)」と言ってもらったり、メンタル面で落ち込んだときには相談にのってもらったりして、みんな優しいです。家族や道場の先生や仲間たち、そして職場でも、周囲の人に恵まれていることが私の強みだと感じます。
――格闘家としてのやりがいや面白さを教えてください。
宝珠山:誰かの心に響くことです。スポーツとはいえ格闘技は命がけで、人間の本質というか"生"の部分が出るスポーツです。だからこそ、心に響くことが本当にあります。自分の試合を見て元気が出た、勇気をもらえたという声を耳にしたときが、本当にやっていてよかったなと思える瞬間です。
――指導者としても活動されていると聞きました。
宝珠山:そうなんです。所属している道場のキックボクシングクラスを担当しています。でも打撃の技術は私よりも上手な人がたくさんいるので(笑)、私はプロとしての試合経験を活かして、試合前の練習や減量、メンタル面でのサポートを積極的に行っています。また、小・中学生を対象にしたキッズクラスでも、代表のサポート役としていっしょに教えています。

――指導者としてのやりがいや面白さはどんなところでしょうか。
宝珠山:悩みながらも成長している姿を見ると感動しますし、いっしょに成長できるのは指導者としてのやりがいです。試合結果がどうであれ、得られるものは必ずあって、できることが一つずつ増えていく様子に、こちらも毎回感動します。
自分で限界を決めない。周囲に支えられながらオンとオフを両立
――仕事と格闘技を両立させる楽しさや、逆に大変なことはありますか。
宝珠山:楽しさは、修斗が生きがいやストレス発散になることですね。「精いっぱい生きている!」と実感できるんです。一方で、何カ月もかけて練習や減量で追い込んだとしても、試合は長くても10~15分で終わり、すべてが報われることはないというのが大変だと感じている部分です。ただ、いい距離感でオンとオフ、二つの居場所を持つことでバランスが取れているんだと思います。

――両立させるための工夫やモチベーションを維持するためのコツはありますか。
宝珠山:無理だと思わず、自分で限界を決めないことでしょうか。やりたいことを諦めずに、自分は絶対にできるんだ!という気持ちがあれば、必ず行動につながります。そして、時にはまわりに助けを求めることも重要だと学びました。一所懸命にやっていると、誰かが助けてくれるものです。
――格闘技での経験が仕事に役立っていると感じることはありますか。
宝珠山:生活習慣の改善に向けた指導で、運動や栄養指導の提案が幅広くなったと思います。また、格闘技が好きな社員や運動をされている方も大勢いて、会話が広がりましたね。

――逆に、仕事での経験が格闘技に活かされていることはありますか。
宝珠山:試合でのマイクパフォーマンスでしょうか(笑)。マイクパフォーマンスでは端的かつキャッチーに、試合の意気込みや感想を話すんですが、保健師は言葉で相手にわかりやすく伝えることが求められるので、その経験が活かされているような気がします。「修斗史上、最高の挨拶だった」と褒められたこともあるんです(笑)。
――仕事と格闘技で共通する心構えはありますか。
宝珠山:「誰かのために」というのが私は大きいです。仕事でも格闘技でも、誰かの心に響いたり、誰かを救う指導になったりと、誰かのためになろうという心構えが、私のなかでは一番です。

情熱と感謝の気持ちを忘れずに。"ワクワク"に向かって頑張りましょう!

――宝珠山さんが描いている将来の目標を教えてください。まずはお仕事の方からいかがでしょうか。
宝珠山:少し大げさな表現かもしれませんが、誰かの生きる糧になりたいです。私が健康の相談場所になることで「あとちょっと頑張ってみようかな」という想いにつながる存在になれればいいですね。
――格闘家や指導者としての目標はいかがですか。
宝珠山:試合を観た方に「頑張ろう」とか「自分もこうなりたい」と思ってもらえるような、影響力のある選手になりたいです。特に日本の女子格闘技は、まだ発展途上で選手層が薄いのが現状です。今後はサポート面からも尽力できないかと考えています。

――仕事と趣味の両立を目指している方へ、メッセージやアドバイスをお願いします。
宝珠山:本当にやりたいと思ったことは、諦めないでください。情熱と、まわりへの感謝の気持ちがあれば絶対に誰かが助けてくれます。 生きることは、それだけで可能性にあふれています。理不尽なこともあるかもしれませんが、そのなかでも心がワクワクすることに向かっていっしょに頑張りましょう。


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