切手はこうして作られていた!日本に8名しかいない切手デザイナーの1日を取材!

切手はこうして作られていた! 日本に8名しかいない切手デザイナーの1日を取材!

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手紙やはがきなどの郵便物を出す際に必要となる「切手」。料金前納証明の証紙という役目でありながら、豊かなデザインで手紙に彩りを添え、なかには切手そのものに魅了されて収集を行うコレクターも存在します。そんな切手のデザインを手がけているのが、日本郵便株式会社に所属する「切手デザイナー」たち。

切手のデザインはどのように生み出されているのか、そもそも切手デザイナーとはどのような職業なのか。日本に8名しかいない切手デザイナーの一人、楠田 祐士(くすだ ゆうじ)さんにお話を伺いました。

楠田 祐士(くすだ ゆうじ)さん

日本郵便株式会社 郵便・物流事業統括部 切手・葉書室 切手デザイナー

楠田 祐士(くすだ ゆうじ)さん

2014年、日本郵便株式会社に切手デザイナーとして入社。これまで500種類以上の切手をデザイン。代表作に「灯台150周年」、「My旅切手シリーズ」、「美術の世界シリーズ」、「ふみの日(2019年、2020年、2021年)」など。

切手を企画してから郵便局に並ぶまで、約1年間の制作期間が必要!

そもそも切手はどのような過程を経て作られているのでしょうか? 楠田さんにお聞きすると、その制作期間は切手の種類によってまちまちなようですが、コンセプトの検討から実際のデザイン作業、そして印刷して郵便局に並ぶまでを含めると約1年間と長期にわたるそうです。楠田さんに、切手制作の大まかな流れについて教えていただきました。

<切手制作の流れ>

※スケジュールは目安です

コンセプトの検討(発売の12カ月前)
・「切手発行計画」に基づきテーマが決定
・テーマに沿ってコンセプトを検討
・社内会議でコンセプトをプレゼンテーション

コンセプト決定(発売の9〜10カ月前)

デザイン作業
・切手モチーフの許諾先に内諾を取る
・デザインを作成
・社内会議でデザインをプレゼンテーション

デザイン決定(発売の7~8カ月前)

入稿作業
・権利関係者へ許諾申請
・図案のチェック/デザインの調整
・印刷会社と契約
・入稿
・試刷(色味など最終調整)

校了(発売の3カ月半〜4カ月前)

切手の印刷
・切手の印刷
・各郵便局への配分・配備

郵便局で発売

切手デザイナーといっても、図案をデザインすることだけが仕事ではありません。クリエイティブ面以外でも、例えば絵画を切手にする場合は絵の権利者に連絡をして許諾を取ったり、デザインの内容に間違いがないか社外の機関にチェックしてもらったり、実はそういった細かな業務も楠田さんをはじめとするデザイナーと事務方の切手プランナーが協力して行っています。

デザインの力で、切手シートのなかにストーリーを持たせる

もともと就職活動を始めるまでは、切手デザイナーという職業が世にあることすら知らなかったと言う楠田さん。その道を志したのは、いわば偶然の巡り合わせだったと言います。

「石川県の美術大学で学んでいたんですけど、まわりに広告系のデザイナーを目指す人が多いなかで、私は広告のようなメッセージ性の強いデザインよりも、何というか余暇や休みの日に楽しんでもらえるようなデザインに携わりたいという想いがありました。そんな折に、たまたま切手デザイナー募集の案内を目にして、これなら自分のやりたいことが実現できそうだなと、応募を決めました」(楠田さん)

これまで約500種類の切手をデザインしてきたと言う楠田さん。そのなかでも最も思い出深いのは2018年に発売した「灯台150周年」切手だそう。日本で灯台建設が始まってから150年を迎えることを記念して制作された切手です。

「灯台150周年」切手

「学生のころ、気ままに能登半島を自転車で一周したことがあります。特に目的もなく、ただ自分を探しているような旅でしたが、一つだけ決めていたことがありました。それは、能登半島の最先端で朝日を見ることです。そして、その場所にあったのが禄剛埼(ろっこうさき)灯台だったんです。それ以来、灯台には特別な思い入れがあり、この灯台の切手制作の話が出たとき、迷わず担当したいと手を挙げました」(楠田さん)

そんな楠田さんは、「ストーリー性」のあるデザインを得意とされているそうです。

一枚の切手シートのなかにストーリー性を持たせるのが好きなんですよね。例えば、『ふみの日』という、郵政省(当時)が1979年に制定した記念日(毎月23日)があります。『ふみの日』にちなんだ切手をデザインした際は、手紙を書くような丁寧な暮らしを表現したくて、手紙が届く、読む、返信を書く、投函するという4つのシーンに分けて切手を作ったり、収穫された果物と瓶詰めになった果物、ニワトリと卵のサンドイッチといったように対になる切手を作ったりと遊び心を加えています」(楠田さん)

楠田さんがストーリーを織り込みながらデザインした切手の数々

日々、試行錯誤しながらデザインを考えている楠田さん。仕事のやりがいを感じるのも、完成が間近に見えてきたときだと言います。そして何より、切手を買ってくださった方々からよい反響を聞けたときは、大きな喜びを感じるそうです。

「SNSで、デザインがいいから思わず購入した、この切手で手紙を出したい、などの声を見つけるとすごくうれしくて、それがやりがいにつながっていますね」(楠田さん)

切手デザイナー 楠田 祐士さんのある1日をレポート

楠田さんの勤務するオフィスに潜入し、そのお仕事を取材しました。訪れた日は、ちょうど定例のミーティングが行われていました。ということで、まずは打ち合わせの様子をのぞき見します。

全体ミーティングは週に1度、切手デザイナーをはじめ切手プランナーなど切手・葉書室のメンバーが集まり、各担当案件の進捗報告や会議に向けた意見交換などを行います。

楠田さんも、自身が手がけている「My旅切手シリーズ」の報告をするとともに、時折、ほかのデザイナーの報告に対してもコメントをしていました。

ちなみに、切手プランナーとは切手のデザイン以外を担当する役割の人です。例えば、切手のテーマを決める際には、ペアとなるデザイナーとプランナーで話し合いが行われます。また、デザインの承認を得るための手続きは、簡単なものはデザイナーが行い、複雑な契約が必要な場合はプランナーが担当するなど、それぞれ協力し合いながら進めます。

この日は切手発行にかかわる全スタッフが集まる全体ミーティングとは別に、楠田さんのペアとなるプランナーやリーダーのデザイナーだけが集まる少人数のミーティングがあり、完成間近の「My旅切手シリーズ」について、細かな意見交換が行われました。

12時からはランチタイム。最近は、自身のデスクでランチをとることが多いと言う楠田さん。定番のメニューは、コンビニで買えるカツサンドです。炭水化物のほかに、タンパク質もいっしょに摂れるのがお気に入りのポイントなんだとか。

ほぼ毎日ランチにはカツサンドを選んでしまうそう

午後、全体ミーティングなどの結果を受けて、デザインの調整を行います。描く作業は、最近ではもっぱらデジタルで行われているようで、ペンタブレットを使いながら描画ツールソフトで下絵を描いたり、彩色をしたりしています。

自身のデスクに向かい作業中の様子
絵を描く際には、植物図鑑などさまざまな専門書も参照している

デジタル派の楠田さんですが、アイディアを膨らませる際は、クロッキー帳に走り描きするなどしてイメージを浮かび上がらせることが多いのだとか。

「アイディア出しをするときも、本当にラフ未満という感じの絵をクロッキー帳に落書きして考えています。やっぱり、アイディアが一番浮かぶ瞬間って、手を動かしているときだと思うんですよね」(楠田さん)

アイディアに行き詰まったときも、学生時代に何度も基礎練習として行った手のデッサンをして、気分の切り替えを図ると言う

デザインが決まるまでは、「パズルのピースがハマっていないような違和感」を覚えると言う楠田さん。そんな毎日の気分転換となっているのが、オフの日に楽しむ「将棋」です。

「祖父の影響で幼稚園生のときから将棋を始めました。最近は将棋を『指す』ことよりも、『見る』ことにハマっていますね。いまはネットでも対局が見られるので便利ですが、電車移動中など音が出せないときには、棋譜(対局で指された手を記録したもの)でも対局の様子をチェックしています。自分でもガチ(の将棋好き)だと思いますね(笑)」(楠田さん)

将棋盤に向かうと不思議と心が落ち着くそう

「自然と動物」というコンセプトを楽しんでもらいたい

楠田さんが手がけている「My旅切手シリーズ」は、旅をコンセプトに、その地域の魅力的な景色や生活文化、特産品などを題材としたシリーズ。2025年3月5日に発売となった第10集は「北海道」がテーマです。

My旅切手シリーズ第10集テーマ「北海道」

地域がテーマになっているため、「My旅切手シリーズ」ではできる限り、現地で取材をしたうえでコンセプトを考えているそう。今回も、北海道に足を運んだ経験が大きなインスピレーションにつながっていると言います。

「飛行機が着陸する際に見えた景色にすごく感動したんです。北海道ってすごく広いなという印象と、自然の豊かさにも圧倒されました。さらに現地で羊の放牧風景や、旭山動物園の動物たちを見るなかで、『自然と動物』というコンセプトが浮かび上がってきました」(楠田さん)

今回の「My旅切手シリーズ」のデザイン案。題材の選定には、北海道で働く社員の意見も参考にしているのだとか

最後に、切手デザイナーとしてこれから取り組んでいきたいことを伺うと、次のように答えてくれました。

「SNSが普及した現代だからこそ、切手デザイナーとして何ができるか、深く考える必要があると感じています。そこで大事なのは、切手だけで解決策を考えようとするのではなく、すでに進んでいる手紙振興といった施策とも連携して、手紙を書く魅力を広めていくことだと思っています。手紙を書くことは、相手のことを思う心の表れであり、とても豊かな行為ですよね。手紙を、人を思う特別な贈り物として捉えてもらえるよう、これからも切手デザイナーとして新しいことに取り組んでいきたいと思います」(楠田さん)

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