日本の街を元気に! 郵政が描く、まちづくりのデッサンVol.1 日本郵政不動産 岩崎社長が語る! 不動産事業、まちづくりへの未来と展望
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日本郵政グループの一員として、グループの不動産開発を担う、日本郵政不動産株式会社。その代表取締役社長 岩崎 芳史(いわさき よしふみ)さんにインタビューを行い、不動産事業に取り組む背景や、街のにぎわいを創る醍醐味を語っていただきました。さらに、現在開発が進む「広島駅南口計画(仮称)」の取り組みについて、広島プロジェクトマネジャーの三宅 正博(みやけ まさひろ)さんに伺いました。
日本郵政不動産株式会社 代表取締役社長
岩崎 芳史(いわさき よしふみ)さん
1967年、東京大学教養学部卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)を経て、1970年に三井不動産へ入社して臨海事業部に所属し、スエズ運河の拡幅工事の際は駐在員としてエジプトに滞在。2003年、三井不動産販売(現・三井不動産リアルティ)代表取締役社長に就任。2014年、ゆうちょ銀行取締役、2016年、日本郵政代表執行役副社長(現職)、2018年に現職である日本郵政不動産代表取締役社長に就任。
日本郵政グループにおける不動産事業の使命と存在意義
――日本郵政グループとして、不動産事業に取り組む意義とは何でしょうか?
岩崎:郵便物数の減少、低金利環境の継続などにより日本郵政グループは厳しい事業環境に置かれており、このような状況が長期にわたって継続することは以前から予想されていました。制約の少ない民間企業として次の柱となる新事業を始めなければ、グループ全体としての成功が見込めないこともわかっていました。
私は5年半前に日本郵政グループに来たのですが、その時点で日本郵政グループは土地で1兆5,000億円、建物で1兆2,000億円、合わせて2兆7,000億円もの不動産を全国津々浦々に保有していました。そのなかから本業の郵便事業で使わなくなった不動産を活用することくらいしかできませんでした。つまり、共同事業参画や収益物件の取得などの一般の不動産事業はできなかったのです。
そこで2年の準備期間を経て、事業の拡大を目的にグループ外不動産も取り扱うデベロッパーとして、2018年4月に日本郵政不動産株式会社を立ち上げました。そのころ、喫緊の課題だったのが、広島駅南口、蔵前、虎ノ門・麻布台、五反田、梅田三丁目という5つの大規模物件に関して、一刻も早く開発の目処を立てることでした。これらの物件に関しては、2019年半ばで開発の見通しがついたので、そこからグループ外不動産を取得するなどの活動もスタートさせました。要は、グループの保有物件だけでは事業規模の拡大を実現できないと判断したからです。
――保有物件には限りがあるため、外部からの不動産取得も並行して進めていかなければならないということですね。
岩崎:そうです。具体的には2019年の秋から徐々に外部物件の取得を進めていまして、約2年間で600億円強の契約ができました。2020年度からの5年間で営業収益を現在の400億円から900億円まで、営業利益は105億円から150億円を見込めるよう進めているところです。そのようななかで、不動産事業の総資産額も現状5,300億円のところを1兆円まで持っていくよう、5年間で5,000億円の投資を計画しています。内訳としてはグループの保有物件に関して3,000億円、グループ外不動産に2,000億円を投資します。ただ、不動産は収益が実るまで時間がかかりますから、5年ではなく7年計画として考え、そこを当面の目標としています。
不動産の価値向上を目指す、未来を見据えた取り組み
――現在取り組まれている事業や、今後の事業計画についてお聞かせください。
岩崎:目の前の取り組みとしては、5つの大規模物件のほか、全国の開発候補不動産のプロジェクトを進めています。また、ご存じのように郵便物数が減少傾向にあるため、日本郵便としては生産性の向上を目的に、全国の郵便ネットワークを再編・整備し集約を進めています。さらに、空きが出る施設の再開発や有効活用を進めています。その先端的な事例として、『JPタワー』や『JPタワー名古屋』、『KITTE博多』などが挙げられます。
また、全国には日本郵政グループの社宅もたくさんあります。社宅の利活用に関しては分譲住宅への転換ではなく、賃貸での展開を考えています。ただ、地域への貢献を考え、賃貸住宅の前に保育園や高齢者施設といった社会的意義が高い施設の開発を優先しています。
現在、保育園は4カ所運営中、1カ所で開発が進行していますし、運営中のものでは都内の社宅跡地に保育園と高齢者施設を合築した物件があります。保育園と高齢者施設を隔てる壁をガラス製にしてお互いの様子を見られるようにしたり、子どもたちと高齢者が交流するイベントを実施したりと、さまざまな工夫をこらしています。
ESG経営と、リアルとデジタルが連動した新たな体験価値の提供
――グループ保有不動産については持続可能な成長を目指すESG経営と、リアルとデジタルが連動した新たな体験価値の提供を行うDX(※)の推進にも取り組まれるそうですが、具体的にどのようなことをされるのでしょうか?
岩崎:2030年までにグループ全体でCO2を46%削減、2050年には0を達成することが目標として掲げられています。ただ、不動産事業の視点で考えると、過去に建てられたビルにはESGやDXへの配慮が少ないのが現状です。そこで、これから開発する物件はESGとDXの2つを優先項目に置くことにしました。そのための実証実験は、すでに既存のビルでも行っています。
例えば、会議室内にCO2濃度を測るシステムを導入し、自動換気を行うことができるようにするなどしています。また、社内でロボットの実証実験も行っています。人間に代わって、来客の案内やペットボトルの運搬などの作業をやらせてみています。将来的には、食堂でロボットが配膳を行い、人間をサポートすることも考えられますね。さらに、ビル周辺の緑地化はもちろん、DXを用いたオフィス環境の改善が必要だと感じています。
※DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術の浸透により、人々の生活がよりよいものに変化すること
――"リアルとデジタルが連動した新たな体験価値"とは、どのようなものですか?
岩崎:これは一例ですが、梅田三丁目計画(仮称)では商業施設と劇場とホテルが併設された複合ビルを建設中で、さまざまなお客さまにご利用いただく予定です。お客さまにとって、買い物をする、観劇をする、ホテルに泊まるというそれぞれの目的だけではなく、ビル全体の施設を楽しんでいただきたいですね。そのためには、「DXを活用し、どのようなサービスを提供できるか」ということがカギになると考えています。
例えば、ホテルに宿泊されている方が商業施設で買い物をしたいと思った時、施設内の人流データから混み具合を確認することができれば、ベストなタイミングで買い物が楽しめますよね。このように、DXを活用したサービスをお客さまに提供し、リアルな体験を通じて満足していただく。それこそが"リアルとデジタルが連動した新たな体験価値"なのです。
まちづくりとは、未来を創るということ
――日本郵政不動産として、まちづくりをどのように進めていくご予定でしょうか。また、将来の展望についてもお聞かせください。
岩崎:まちづくりとは、ただビルという箱だけを作ればいいというものではありません。もちろん、ビルがその街の拠点となることもあるわけですが、それは一つの点にすぎません。そのようないくつもの点が線で結ばれることで、"魅力的なまち"が創られていきます。また、まちづくりは自分たちが単独で行うのではなく、地元の企業や周辺の方たちと一緒に考え、創り上げていくものだと思っています。
将来の展望としては、不動産というハードの提供に留まるのではなく、サステナブルな社会を目指して、デジタル技術を活用したソフトを含めた「総合的な不動産サービス」を考えています。さらに、全国にある郵便局を活用し、地域の生活に密着した未来先取型の新たな不動産サービスの提供も可能だと思っています。
例えば、郵便局内に空きスペースがあるならば、そこで保育サポートができるかもしれません。また、郵便局員による見守りサービスもDXを連動させることによって、自宅にいる高齢者の状況を確認でき、万が一の際には迅速に医療を受けられるよう手配することも実現できるはずです。
まちづくりとは、そこで暮らす人々の生活、地域社会、さらには地球環境の課題解決にもつながる。つまり地域と未来をつなぐシーンの創造であると私は考えています。
――岩崎社長ご自身、現在の健康維持のために何かされていることはありますか?
岩崎:10年前から真義館空手道という流派の空手を学び始めました。武術空手としての型を主に稽古してきました。そのなかには活人術という人を活かす稽古もあります。全身の力を抜いて、丹田(へそのあたり)から全身に「氣」を通し、相手に全ての愛を注ぎます。昨年1月に妻ともども二段になりました。先日のオリンピックのボクシングウェルター級2回戦で敗退した岡澤 セオン選手が来社した際、私が空手の技をセオン選手に試してみたら見事にすべての技が掛かりました。その後11月の世界選手権でセオン選手は世界チャンピオンになりました。帰ってきてお祝い会をした時に、彼の第一声は「岩崎さんのおかげで世界チャンピオンになれました」でした。全身の力をすべて抜くと一番強いという真義館空手の教えは、力一辺倒のボクシングにはなく、ボクシングの幅がすごく広がったとのことでした。そんなすばらしい空手のおかげで心身を鍛えることができています。
――最後に、岩崎社長から社員のみなさんへメッセージをお願いします。
岩崎:私が日本郵政グループに来たとき、社員のみなさんの姿勢が気になりました。決められたことはきちんとこなすのですが、自ら次の道を開拓しようとするチャレンジ精神の弱さを感じたのです。そこで、就任1年目の挨拶では「まずは畑を耕して種をまこう。トライ&エラーで良いから、明るく楽しく仕事をしてほしい」とお話ししました。
2年目には、「現場主義になってほしい」と伝えました。不動産は同じものが一つとしてありません。たとえ住所が同じでも、方角によって状況は異なります。それは、実際に現場に足を運ばなければわからないんです。現場主義になることで、それぞれの状況に合った的確な対応が可能になるのだと私は考えます。
そして、3年目では「飛び立ちましょう」と伝えました。パイロットになったつもりで、自らが飛行機を操縦して空を飛ぶ。そのためには、仕事を自分ごとと捉え、一人称で取り組まなければなりません。毎年、ステップバイステップで話をしてきましたが、私の言葉が社員一人ひとりに浸透してきたことを実感しています。
新たなランドマークの誕生に期待がかかる「広島駅南口計画(仮称)」
――ここから、広島プロジェクトマネジャーの三宅 正博さんにお話を伺います。まず、「広島駅南口計画(仮称)」の開発背景をお聞かせください。
三宅:広島駅周辺では、2016年頃から官民連携による複数の市街地開発事業及び広島駅新幹線口の広場再整備などが進行し、エリアとしてのポテンシャルが上がっていました。そんななか、JR広島駅南口にある広島東郵便局が現地では一等地という評価もあり、まちづくりに貢献できる好機と捉え開発が決まりました。まちづくりの面では、私たちも広島駅周辺地区まちづくり協議会に設立準備当初から参画しており、地域の方々とともに歩んでいると感じています。
物件は、延床面積が約44,800平方m、地上19階建て、高さ約90mのビルです。1、2階が商業店舗、3〜5階が200台収容の自走式駐車場、6階から上がオフィスとなります。2022年1月現在、工事の進行状況は全体の60%を超えました。外装工事はすでに終盤に差し掛かり、2022年8月の竣工を目指して内装工事を進めているところです。
広島市都市圏では、まだ着工に至っていないものを含め、複数の市街地開発が発表されていますが、特に広島駅南口計画(仮称)への期待値は高く、携わる事業者の方々から成功を望む声をよくいただいております。
――開発地区をどのような街にしたいと考えているのでしょうか?
三宅:今回の開発にあたり、検討当初から広島市の都市整備局と綿密な打ち合わせを重ねてきました。そのなかで「広島市都市計画マスタープラン」に沿ったまちづくりを進めたいという要望をいただいたのです。広島駅周辺は都心と位置付けられていますが、駅南口周辺には商業施設やホテル、住居は充実しているものの、オフィスが不足しているんですね。経済活動を活発化させ都市機能を集積させるためには、大規模な賃貸オフィスビルが求められていることを実感し、現地の方々の期待に応えられる機能用途を持つオフィスビルの建設が決定しました。
また、2025年春には現在建て替え工事が行われている広島駅ビルが完成予定となっており、駅ビル2階と本計画2階がデッキで接続する予定です。広島駅ビル2階には路面電車が新たなルートで入ってくるので、利便性の向上と人流のさらなる増加が見込まれています。このように都市機能がますます充実していく広島駅周辺を、オフィスビル建設というハードの更新だけではなく、住む人、働く人、買い物をする人、観光する人など、すべての人々にとって魅力のある「まち」にしていきたいと考えています。