未来の物流レボリューションVol.6 物流先端技術が詰まった未来の郵便局!「市川南郵便局」に潜入

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日本郵政グループは中期経営計画「JP ビジョン2025」において、「郵便・物流オペレーションのDX推進」を掲げています。その一環として、2023年2月に開局したのが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の本格的な運用に対応した市川南郵便局(千葉県市川市)。AGV(Automated Guided Vehicle)、仕分けの自動化を図る最新型の区分機や運送便の動態や荷物の積載情報を把握するシステムの導入など、生産性の向上に向けた先進技術を数多く取り入れています。
今回、その市川南郵便局の内部に潜入し、市川南郵便局 郵便部の内村 正和(うちむら まさかず)さん、田中 良平(たなか りょうへい)さん、ゆうパック部の谷津 孝宏(やつ たかひろ)さんに、導入されているシステムについてご紹介いただくとともに、システム開発を担当した、日本郵便株式会社 郵便・物流ネットワーク部の近野 裕樹(こんの ひろき)さん、泉 香緒里(いずみ かおり)さんに、開発の狙いや、反響についてお聞きしました。
サッカーコート約6面分相当の敷地に先端技術が詰まった"次世代型郵便局"

市川南郵便局は、千葉県北西部の「27」エリア(郵便番号上2桁が27の地域)を管轄する地域区分局(受け持ちエリア内、または全国の郵便局などに向け、郵便物を中継する郵便局のことで、全国に62局ある)として2023年2月に開局しました。
現地に足を踏み入れると、まず驚くのは施設の広大さ。約4万3,000㎡もの面積を誇るフロアのなかで、1日当たり約10万個の荷物と230万通の郵便物が処理されています。DX推進のための先端技術が詰まったこの郵便局。どんなところが「すごい!」のか、実際に働いている方々に、解説していただきました。
解説してくださったのはこちらの方々

市川南郵便局 郵便部 課長
内村 正和(うちむら まさかず)さん
1985年、郵政省(当時)に入省、新東京国際空港局(当時)に配属。2023年2月の市川南郵便局開局に伴い着任。業務全般に精通し、社員の指導育成に取り組んでいる。

市川南郵便局 郵便部 主任
田中 良平(たなか りょうへい)さん
2015年、日本郵便株式会社に入社。松戸南郵便局での勤務を経て、2023年2月の市川南郵便局開局に伴い着任。さまざまな業務に精通し、特にパケット区分機の業務を行っている。

市川南郵便局 ゆうパック部 課長代理
谷津 孝宏(やつ たかひろ)さん
2014年、日本郵便株式会社に入社。松戸南郵便局での勤務を経て、2023年2月の市川南郵便局開局に伴い着任。ゆうパックの仕分け業務および郵便・ゆうパックの輸送管理(運送便関係)業務を行っている。
●ここが「すごい!」―1
1台で3人分の仕事をこなす! 無人搬送車「AGV」

建物に入って、まず目に入ったのはいたるところで自動走行している黒い車体。これは、今まで人の手で行われていたパレット(郵便物を搬送するためのカゴ状の台車)の搬送を自動化したAGVです。内村さんにAGVでパレットを搬送する工程を見せていただきました。
まず、トラックから降ろされたパレットを社員がAGVに装着。目的地を入力すると、AGVが指定の場所まで自動運転でパレットを運んでいきます。

「AGVは小型ですが、連結されたパレット3台を搬送できるほどのパワーを持っています。基本は決められたコースを循環していて、バッテリー残量が減ってくるとコースの途中にある自動充電器でバッテリーの補給を行います」(内村さん)
市川南郵便局は、AGVを全国で初めて本格運用した施設。AGVを導入するメリットを、内村さんは次のように説明します。
「社員の作業量や負担を大幅に減らすことができました。1台のAGVで最大3つのパレットを搬送できるので、単純計算でいえば、1台で3人分の省力化となります。また、搬送を自動化することで事故の予防にもつながり、安全面でもメリットがあります」(内村さん)

●ここが「すごい!」―2
1時間で約1万個の荷物を仕分け! 「パケット区分機」

市川南郵便局では、ゆうパケットを自動で区分(荷物をあて先の郵便局や配達エリアごとに振り分ける作業)する「パケット区分機」の新型機を導入しています。田中さんにパケット区分機導入のメリットについて解説していただきました。
「コンベアの途中に設置したスキャナで荷物の郵便番号や住所を読み取り、あて先に応じたシュートに自動で振り分けていく機械です」(田中さん)


「荷物が各シュートに運ばれるまでには、供給数をカウントするセンサー、荷物の位置を判別するセンサー、トレーから荷物がはみ出していないか検知するセンサーなど、複数のセンサーが設置されており、荷物が素早く正確に仕分けられることで、区分作業の円滑化を実現しています」(田中さん)

田中さんによると、1時間で約1万個の処理が可能とのこと。パケット区分機導入の効果は絶大だと言います。
「以前は、すべて手作業で行っていたため、作業量がとにかく膨大だったんです。パケット区分機の導入によって作業効率が大幅に向上しましたね。また、作業が徹底的に簡素化されたことで、新たに着任された方でもすぐに慣れていただけるようになりました」(田中さん)

●ここが「すごい!」―3
タブレットで機器を一元管理! 「制御管制システム」
AGVの制御やパケット区分機のデータ管理には、「制御管制システム」という新しく開発されたシステムが使用されています。例えばAGVに関しては、専用のタブレット端末を通じて、各AGVの現在地や稼働状況、機器の異常などを一目で把握できるほか、必要に応じてAGVを呼び出したり、バッテリーの少ないAGVを充電ステーションに返却したり、といった操作も遠隔で行えます。
ほかにも、パケット区分機に限らず、郵便物や荷物を仕分けするさまざまな機械の情報を集約して、リアルタイムで作業進捗を確認することができます。

●ここが「すごい!」―4
スマートフォンによる情報管理で効率化! 「輸送テレマティクス」
「制御管制システム」と同様に、市川南郵便局に全国初導入となったのが「輸送テレマティクス」。これは輸送トラックのドライバーと郵便局の社員が所持するスマートフォンを通じて、共通のアプリケーションを活用することでペーパーレスによる荷物の授受手続きや、輸送トラックの位置情報管理などができるシステムです。そのメリットについて、谷津さんに解説していただきました。
「従来は、荷物の受け渡しの手続きには紙の書類が必要で、ドライバーが局内の受付を何度も行き来しなければなりませんでした。


輸送テレマティクスでは、パレットに貼られた票札の二次元コードをスマートフォンで読み込むと荷物の情報とあて先の郵便局を確認できるので、どの荷物をトラックに積み込めばよいのかをすぐに把握することができます。これによってペーパーレス化が実現できたほか、ドライバーが受付まで行って書類の受け渡しをするという手間もなくなりました」(谷津さん)
世界からも注目! 物流DXのフロントラインで働くことの魅力

開局から2年を迎えた市川南郵便局。現在のところは大きな問題もなく安定した運用がなされ、期待通りの成果を生み出せていると言います。
また、先進的な取り組みをする郵便局ということで、取材や社内外からの視察の機会も多く、働く社員の方々も、周囲からの大きな期待を感じながら、やりがいを持って働けているそうです。内村さん、田中さん、谷津さん、それぞれにお話を聞きました。
「市川南郵便局で実施している取り組みは、いずれは全国の地域区分局への導入も想定されているのだと思います。私としましても、他拠点にも展開していくことを想定したうえで、いま導入されている新しい設備やシステムをどう運用していくのが望ましいのかといったことをイメージしながら、日々働いています」(内村さん)

「DXの推進によって、市川南郵便局だけでなく、関連するエリア全体の作業効率化に貢献できることが、大きなやりがいになっています。エリア全体で業務量の軽減につながっていることもとてもよいことですよね」(田中さん)

「今まで使ったことのないシステムに触れるようになって、このシステムをどのように使うと効率化が図れるのだろうと考える習慣がつきました。開局から2年が経ちましたが、いまだに新しい発見があります。工夫のしがいがありますし、非常にやりがいを感じるところですね」(谷津さん)

"経験と勘による仕事"から"データに基づいた仕事"へ
新しいシステムの導入にはどのような苦労があったのか、そしてどのような点にこだわったのか、日本郵便株式会社 郵便・物流ネットワーク部の近野 裕樹(こんの ひろき)さんと泉 香緒里(いずみ かおり)さんにお話を聞きました。

日本郵便株式会社 郵便・物流ネットワーク部 係長
近野 裕樹(こんの ひろき)さん
2012年、日本郵便株式会社入社。人事部、輸送部などを経て、現在は郵便・物流ネットワーク部にて輸送テレマティクスを中心とする輸送DX施策に従事。

日本郵便株式会社 郵便・物流ネットワーク部 主任
泉 香緒里(いずみ かおり)さん
2017年、日本郵便株式会社入社。関東支社、金融営業部などを経て、現在、郵便・物流ネットワーク部で各種区分機の導入企画を担当している。
まず苦労点として、近野さんと泉さんともに挙げたのが、「開局スケジュールに合わせて短期間でアプリの開発と導入を進めなければいけなかったこと」でした。

「開発に入る前に別の郵便局でアプリケーションの試行をさせていただけたこともあって、なんとか短期間で実装することができました。関係した皆さんのご協力がなければ実現できませんでしたので、感謝しています」(近野さん)
「短期間であるとともに、支社・郵便局はもちろん、各機器のメーカーや接続するシステムのベンダーなど、社内外の関係者の数が多く、システムを構築するうえでの調整事項が非常に多かったことも大変だった点ですね」(泉さん)
また、システムのこだわりに関しても、お二人の意見は一致。それは「ユーザビリティの徹底」です。
「従来の紙ベースでの運用がスマートフォンに置き換わっても、違和感なく、自然な流れで作業が行えるよう意識しました。無駄な機能を省いて、直感的に操作できるようにしたという点も、こだわりのポイントです」(近野さん)
「システムの要件を決める際には、社員の意見を積極的に取り入れました。例えば、制御管制システムに関しては、当初コンセプトはあっても、具体的にどういう機能を入れるかは決まっていなかったので、社員の意見はとても参考になりました」(泉さん)
短期間でのシステム開発となりましたが、開局から2年が経過しても大きなトラブルが起きることもなく業務に活用されていると、近野さん、泉さんは喜びの声を漏らします。

「市川南郵便局の規模でAGVを使用している事例はなかなかないため、想像以上に社内外からの注目度が高く、反響も大きかったです。また、制御管制システムによって、エリア内の配達を受け持つ郵便局でも、到着前に配達する郵便物の数が把握できるようになったという点が好評でした」(泉さん)
「開局後に行ったアンケートでは、操作性や視認性の観点で非常に高評価な結果を得ることができました。ほかにも、市川南郵便局の管理者からは、導入当初は戸惑いもあったけれど、今となっては欠かせないツールになっている、というような声もいただきました」(近野さん)
また、今後の展開としては、制御管制システムや輸送テレマティクスの運用で取得できたデータの活用を進めていきたいと近野さんは話します。
「例えば、輸送テレマティクスでは、これまで漠然としか把握されていなかった運送車両の走行時間やルートなど、走行にまつわるさまざまなデータをリアルタイムで取得しています。今まで可視化されていなかった物流データを活用することで、運送の効率化を図り、物流ネットワークの再構築を目指すことが私たちの目標です」(近野さん)
最後に、市川南郵便局の開局が、日本郵政グループにとってどのような未来へつながるきっかけとなるか、お考えを伺いました。

「市川南郵便局は、まさに未来の地域区分局像と認識しています。特に輸送分野においては、市川南郵便局での輸送テレマティクスの導入実績が認められ、2025年度下半期から全国へ順次展開し、2026年度中に全国で導入完了する計画で検討が進んでいます。これはまさに市川南郵便局での成功があってこそで、私たちにとっては非常に大きな未来への一歩になったと思います」(近野さん)
「市川南郵便局で見えてきたよい点・課題点を活かして、ほかの郵便局へも制御管制システムを展開していくことで、郵便局の業務が、これまでの"経験と勘による仕事"から"データに基づいた仕事"へと変わるきっかけになればと思います」(泉さん)
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