ローカル共創のススメVol.3 奈良市月ヶ瀬で買物を通じた新しい地域拠点づくりがスタート!
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「地域(ローカル)」をフィールドとしたプロジェクト、「ローカル共創イニシアティブ」※で各地に赴任している社員を紹介する本企画。
※公募により選出された日本郵政グループの若手・中堅社員を、社会課題に先行して取り組む地域のベンチャー企業や地方自治体に2年間派遣することにより、新規ビジネスなどを創出することを目指すプロジェクト
第3回は、奈良県奈良市月ヶ瀬の行政センターに赴任し、地域課題の解決に取り組む光保 謙治(みつやす けんじ)さんを取材。光保さんは月ヶ瀬を含む奈良市東部地域での「共助型買物サービス」の実施に向けた取り組みを進め、2023年2月に実証実験をスタートさせました。そんな光保さんに、共助型買物サービスを利用して購入した商品の受取場所のうちの一つであり、光保さんの働く拠点でもある「月ヶ瀬ワーケーションルームONOONO」(以下、ONOONO)でお話を伺いました。
日本郵政株式会社 事業共創部
光保 謙治(みつやす けんじ)さん
2011年、当時の郵便局株式会社へ入社。人事部で人事制度の設計、チャネル企画部で店舗戦略の策定などに携わったほか、福井県の福井南郵便局で郵便・物流の実務にも従事。2022年4月より、日本郵政株式会社事業共創部へ異動と同時に奈良市へ出向。
コミュニティの強化を見据えた「共助型買物サービス」とは
今回実証実験を行った共助型買物サービスは、日本郵便が日々郵便物などを配達している車両の余積や既存の配達網を活用して、イオンリテール株式会社が提供する「イオンネットスーパー」の商品を地域内の拠点へ複数注文分をまとめて配達するというもの。対象となる地域は、奈良市東部の月ヶ瀬、柳生、東里の3地区です。
ポイントとなるのは、注文した商品がエリア内に設けた受取場所にまとめて配送されること。そうすることで、受取場所には自然と地域の人が集まります。買物だけでなく、"地域の拠点"を創出したいという想いが込められているのです。
お互いに助け合う「生活のための仕組み」をつくる
――まずは月ヶ瀬地域のことについて教えてください。ローカル共創イニシアティブでの赴任から1年ほどが経ちましたが、月ヶ瀬の印象はどうですか。
光保:皆さん温かく接してくれてありがたいです。月ヶ瀬は、人口減と高齢化こそ進みつつありますが、閉塞感のようなものはありません。子どもの数が多い印象で、1家庭で子どもが4~5人というご家族もいて、日常的に子どもの声が聞こえてくる地域です。
――月ヶ瀬地域では買物にどんな課題がありますか。
光保:スーパーが非常に遠く、名阪国道(自動車専用道路)を利用しても車で往復40分はかかる環境です。とはいえ、現時点でそれを課題だと思っている住民の方が多いというわけではありません。そこで、こちらから課題だと押しつけるのではなく、住民と事業者、そして住民同士がお互いにできることを助け合い、今よりも少し便利にするというアプローチで、生活のための仕組みづくりをかねた買物サービスにしたいと思いました。
――共助型買物サービスは、日本郵便が日々運行している集配車両を活用したサービスですね。
光保:既存物流の一部をなぞることで、業務負荷を最大限抑制したオペレーションにより、集配車両の余積を活用して3カ所の受取先に届けています。奈良中央郵便局が物流ハブとなって商品の配送と空コンテナの回収を担いますが、毎日運航している運送便を活用しているほか、限られた受取先への一括配送としており、本サービスのための社員の増員などは行なっていません。持続可能な仕組みになるようスキームを構築しました。
――サービスの構想段階で地元郵便局の局長にも相談されたそうですね。
光保:ONOONOの近くにある月ヶ瀬郵便局の今井局長に、月ヶ瀬という地域の成り立ちや特徴など、今でも包括的に教えてもらっています。周辺一帯の局長の皆さまにも、サービスの構想を話すと「こういったサービスなら受け入れられるのでは」と、相談にのってもらえて助かっています。
月ヶ瀬郵便局 局長
今井 吉則(いまい よしのり)さん
今井:長年月ヶ瀬に住む私には、自分たちが買物難民だという概念がありませんでした。光保さんと話をするうちに、「そういえば、近所にも車が運転できない高齢者世帯が何軒もあるけど、買物はどうしていたんだろう」と思うようになりました。
この買物サービスでは、新しいコミュニケーションが生まれてくるのもいいなと思います。なかにはスマホで買物をするのに抵抗がある人もいるかと思いますが、私の働く月ヶ瀬郵便局の窓口でもタブレットを置いて、このサービスを利用してみたいという方のサポートをしています。人間を介したサービスも組み入れながら、普及が進むのを期待しています。
約1カ月間にわたる実証実験がスタート!
1年あまりに渡って構想・準備を進めてきた共助型買物サービスは、2月下旬に実証実験がスタートしました。サービスに登録した人数は予想を上回る約50名。サービス開始の初日には、3カ所の受取先で合計12名の方がサービスを利用しました。以降も、注文がゼロの日はありません。
ご利用者さま:ふだんの買物は、隣の三重県伊賀市にあるスーパーなどで行っていますが、例えば何か買い忘れがあった際に、またそれだけを買いに行くとなると不便に感じていました。子どもたちが食べるヨーグルトや牛乳などの生鮮食品のほかに、かさ張るキッチンペーパーや重い洗剤、買い忘れたものや急にほしくなったものも注文できて助かっています。 また、受取場所の1つのONOONOは小学校の近くにあるので、仕事の帰りなどに子どものお迎えとあわせてONOONOで商品が受け取れるのが便利だなと思っています。
月ヶ瀬の行政や協業パートナーと手を携えて
光保さんといっしょに構想段階から共助型買物サービスの実現に取り組むメンバーの方々にもお話を伺いました。奈良市行政センターの平山さんと、地域プロジェクトマネージャーの石毛さん。そして、協業パートナーである一般社団法人Next Commons Labの佐藤さんです。
月ヶ瀬行政センター地域振興課 兼 奈良市総合政策部 総合政策課
平山 裕也(ひらやま ゆうや)さん
奈良市 地域プロジェクトマネージャー
石毛 二郎(いしげ じろう)さん
一般社団法人Next Commons Lab
ディレクター/監査役
佐藤 和幸(さとう かずゆき)さん
――サービスの実現に向けて大切にしたことを教えてください。
平山:地域の人たちが受取場所に集まり、買物を通じてコミュニケーションを図ったり、商品を取りに行けない人がいたら「私がついでに取りに行くよ」と声をかけるなど、共助のコミュニケーションが生まれるサービスを目指しています。
――スマホでの買物に抵抗がある方へのサポートにも力を入れているそうですね。
石毛:ONOONOでは、スマホ教室のようにスマホでの注文などの操作のサポートもしています。「ONOONOには、〇〇さんがいるから教えてもらおう」といった感じで、根底に人と人との信頼関係があるからできるのかなと思います。
――佐藤さんは、受取場所で"環境価値を見える化する仕掛け"を提案されたそうですね。
佐藤:地域の皆さんが共助型買物サービスを利用し配送がまとめて行われることで、一人ひとりの車移動によるCO2排出の抑制にもつながります。その環境価値がわかりやすいよう、みんなで作るアートで表現しました。
――利用者の反応はいかがですか。
石毛:ニーズは相当あると実感しましたし、手応えを感じています。共助型というのがポイントで、買物だけではない場づくりによってコミュニティが生まれるので、買物とセットで必要なのだと感じています。
平山: 場づくりという意味では、すでに住民の方たちがONOONOを活用したイベントなどを能動的に企画されたりしています。行政としては、こういった拠点をより多くの住民の皆さんに利用してもらいたいので、実証実験期間中にアンケートなどで声を募り、よりよい地域拠点の創出につなげたいと思います。
――実証実験で住民の皆さんの期待も見えてきました。これからの展望について教えてください。
平山:今回の実証実験は奈良市の東部エリアが対象ですが、ほかのエリアにも展開していければと思います。その点、郵便局は全国のどこにでもあるので、活用させてもらえたら面的に買物の利便性を向上できると考えています。
佐藤:この買物サービスは市街地の商品を月ヶ瀬に配送する、という流れですが、逆に月ヶ瀬の産品を配送して市街地の店舗で販売するなど、月ヶ瀬と市街地の商品を交流させることで両方の地域が潤うような仕組みをつくりたいですね。
――光保さんは、ローカル共創イニシアティブにおける任期が残り1年ほどになりました。赴任中に成し遂げたいことを教えてください。
光保:実証実験は、仮説を検証する段階となっています。まずは、実証実験を終えてから事業化するために足りないものを把握し、成功だと思われる要素の再調査・再検討を次年度の早い段階で終わらせたいです。そして、配送先の増設も検討しながらサービスを実装できればと考えています。
また、今回の実証実験では、イオンリテールさんというビジネスパートナーが、郵政のプラットフォームを介して月ヶ瀬地域に入ってきてくれたことで、買物の利便性向上が実現しました。このように、今後も新たな事業者を持続可能な形で地域に招じ入れることで、地域の「維持」だけではなく、持続可能な「発展」を目指していきたいと思います。
――共助のための場づくりについてはいかがですか。
光保:あくまでも買物は受取場所の利用目的の一つにすぎません。買物を通じて集まる習慣ができれば、例えばフィットネスの先生が教室を開いてビジネスにつなげたり、お医者さんに健康相談をしたりと、機能のレイヤーをどんどん重ねることができると考えています。その経験が、住民の方々が「次は地域に何があればいいだろうか」「何がなければ困るだろうか」と考えるきっかけになっていけば、それがまさに共助の第一歩だと思います。
――最後に郵便局はどんな存在でありたいですか。
光保:私の赴任している月ヶ瀬地域だけでも、まだまだ郵政グループとしてやりたいこと、できることが次々と出てきます。地域の生活を支えるインフラとしての役割はもちろんですが、その信頼感を土台に、「地域でこういうことをやりたいから郵政の人に相談しよう」と思ってもらえる存在になりたいですね。
※撮影時のみマスクを外しています。