私のオンとオフ スイッチインタビュー 郵便局長のもう一つの顔・そば打ちにかける情熱
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約24,000ある郵便局をはじめ、全国で働く日本郵政グループの社員。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。今回話を聞いたのは、北海道の北斗浜分郵便局の髙石 勝利(たかいし かつとし)さんです。局長を務める一方、そば打ちで全国各地の大会に出場しています。その活躍の様子とオンとオフの意外な共通点に迫ります。
北斗浜分郵便局 局長
髙石 勝利(たかいし かつとし)さん
1982年、当時の郵政省に入省。北海道内の鹿部郵便局や登別温泉郵便局などでの勤務を経て、2005年10月より現職。
お客さまあっての郵便局。お客さま目線での接客を大切に
――まず、髙石さんの入社のきっかけを教えてください。
髙石:高校生のときに郵便局で年賀のアルバイトをしていたんですが、それをきっかけに郵便局の仕事に興味を持って就職を決めました。
――アルバイトから局長まで経験されているんですね。現在のお仕事についても教えてください。
髙石:局長としては、人事や社員のメンタルケアも含めて管理業務を行っています。ただ、社員は私を含めて4名と人数が限られていることもあって、みんなといっしょに窓口でお客さま対応も行っています。
――仕事をするうえで、心がけていることや大切にしていることはありますか。
髙石:お客さまあっての郵便局ですから、お客さまが求めていることを会話のなかから探してご提案するように心がけています。カウンター越しだとお話がしにくいときもあるので、椅子で横に座って商品の説明をすることもあります。スマホアプリの操作方法など、お客さまによっては難しい内容もありますので、しっかり丁寧に説明するようにしています。
――仕事のやりがいや魅力を感じるのはどんなときですか。
髙石:いっしょに働く社員とともに「お客さまに喜ばれる郵便局」を常に心がけています。だからこそ、お客さまから「この郵便局に来てよかったよ」、「接客が丁寧でやさしいね」といった感謝の声を耳にするとうれしいですね。私たちとしては、当たり前の接客をしているだけですが、社内の「お客様サービス相談センター」を通じてお褒めの言葉をいただくこともあります。そんなときは、みんなでいっしょに喜びます。
難しいからこそ面白い。「おいしい!」を励みに試行錯誤の日々
――プライベートではそば打ちをされているそうですが、どんなきっかけで始めましたか。
髙石:以前は趣味でマラソンをしていたのですが、腰を痛めてしまったころに、北斗市の広報誌でそば打ち愛好会の存在を知ったのがきっかけです。15年くらい前のことですね。そばに興味はあったんですが、打ったことはなかったので入会してみました。
――最初からそばを打てたんですか。
髙石:いえいえ、最初は全然うまくいかなかったんです。でも、続けるうちに"そばの形"になってきて、そば打ちにも段位試験や大会があることを知りました。そして2015年に「北海道素人そば打ち名人大会」に初めて挑戦したら、いきなり「準名人」をいただいたんです。そこから「名人」の称号を目指して、日々努力を続けています。
――初めて出場した大会で、準名人とはすごいですね!
髙石:選ばれた直後は実感がなかったんですが、地元の新聞の取材なども来て、「これはすごいことなんだな!」と、じわじわ実感が湧いてきました。
――名人を目指して、いろいろな大会に出場されていると聞きました。
髙石:そうなんです。「北海道素人そば打ち名人大会」では準名人を6回いただきました。また、毎年11月に福井県で行われる「全日本素人そば打ち名人大会」には6回出場しています。2024年は、東京で行われた「大江戸そば打ち名人大会」では優秀賞、仙台の「杜の都仙台そば打ち名人大会」では準名人になりました。
――すごい受賞歴ですね! 大会に出場するほかには、どんな活動をしていますか。
髙石:もっと"そば人口"を増やしたい気持ちがあって、地元で「そば打ち倶楽部」を立ち上げて、若手の育成にも力を入れています。そば打ちは、地域活動にも役立っていると思います。商工会のお祭りなど、地域のイベントではそば打ちのブースで打ちたてのそばを提供し、皆さんに喜んでもらっています。
――普段は、どこでそば打ちの練習をしていますか。
髙石:子どもが独立して空いた部屋を"そば打ち部屋"にして練習しています。週末は、親交のあるそば屋さんで練習してプロにチェックしてもらっています。大会が近づくと、毎日そば打ちの練習をして、完成したそばは、友人・知人などに分けています。でも、毎日だとさすがに飽きてしまうだろうと思うと、そばを食べてくれる人を探すのに苦労しますね(笑)。
――そばの材料や道具はいろいろ試しますか。
髙石:そうですね、産地が異なるそば粉を取り寄せたり、製粉屋さんに挽き方をオーダーしたりと試行錯誤の毎日です。そば切り包丁は3本を使い分けています。持ち手の太さを手の大きさに合わせてオーダーしたり、包丁に合わせて革のケースを特注したりと、いろいろ作っているんです。
――材料や道具のほかに、ご自身のコンディションもそば打ちに影響しますか。
髙石:影響します! これまで一度だけ、大会のときに"ゾーン"に入ったような感覚を体感しました。参加者や審査員、観客など、周囲のことがまったく気にならない状態で打つことができ、そのときのそばは、自分でも「すごい!」と思える仕上がりでした。
――髙石さんにとって、そば打ちの魅力はどんなところにありますか。
髙石:毎日、気候も湿度も違うので、同じ粉や同じ道具で打っても仕上がりは違います。そこが、そば打ちの面白いところですし、難しいからこそ続けているのかもしれません。また、いまだに名人を獲得していないからこそ上を目指して頑張れています。
――そば打ちの難しさについてはどうでしょうか。
髙石:粉と水だけで麺にするのがそばです。粉に水を行き渡らせて混ぜ合わせる"水回し"が命と言っても言い過ぎではありません。手の感覚で見極めて、練り、のし、切りの工程を経てそばができあがります。なかなか思うようにいかないときもあって、打つたびに反省しています。
――そば打ちで達成感や、やりがいを感じるのはどんなときですか。
髙石:やっぱり、私の打ったそばを食べた人から「おいしいね!」と言ってもらえることが何よりうれしいです。毎年、年末には社員や地域の皆さんに年越しそばを提供していて、2日間で250人前を打ったこともあります。「おいしくて、そば屋さんに行けなくなったよ」と言われたときは、本当にうれしかったですね。
仕事とそば打ち、どちらでも「人に喜んでもらいたい」
――そば打ちによる、仕事への前向きな影響はありますか。
髙石:やはりメリハリがあるのがいいと思います。趣味とはいえ材料や道具などにはお金がかかりますから、そば打ちのためにも仕事を大切にして頑張ろうと思えます。気持ちの面でも、周囲に「名人になりたい」と公言しているので、前向きになれています。
求めるものがあって、初めてチャレンジできて上に行ける。それは仕事も同じで、働くみんなで目標を決めて、さらに上を目指して頑張っています。
――そば打ちの活動が郵便局での業務に活かされていることはありますか。
髙石:社員にもそばを振る舞うことがあり、それがきっかけで会話が広がるので今では大切なコミュニケーションツールの一つになっています。
――仕事とそば打ちで共通する心構えはありますか。
髙石:仕事でもそば打ちでも、人に喜んでもらうことは共通しています。仕事ではお客さまの求めるものを、そば打ちではおいしいそばを提供して喜んでもらおうという気持ちでやっています。
「名人」の称号を目指しながら、仕事にも全力で取り組む!
――髙石さんが描いている将来の目標を教えてください。まずはお仕事の方からいかがでしょうか。
髙石:社員が健康で、元気に仕事ができる職場が一番です。そのために、局長として社員が働きやすい職場環境づくりを続けていきたいですね。
――そば打ち活動の目標はいかがですか。
髙石:40代半ばから始めたそば打ちですが、還暦を迎えた私にも「名人になりたい」という夢があります。何歳になっても夢は持てます。諦めたらそこで終わりです。諦めなければ、夢はかなうかもしれません。名人になるまで、夢を追って挑戦し続けます!