担当者が熱血解説! Vol.1 切手デザイン・元日挨拶状制作の舞台裏 デザインするのは、想いのつなぎ目

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日本郵政グループの取り組みや仕事など、知られざる舞台裏をご紹介する本企画。今回ご紹介するのは、切手デザイナーの吉川 亜有美(よしかわ あゆみ)さん。2022年の年賀切手や元日挨拶状の丸型ポストのイラスト制作も担当した吉川さんに、切手デザイナーの仕事内容からデザインに込める想いについて、ここだけの貴重なお話を聞かせていただきました。

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2022年元日挨拶状

【今回のナビゲーター】

吉川 亜有美(よしかわ あゆみ)さん

日本郵便株式会社 郵便・物流事業企画部 切手・葉書室 切手デザイナー

吉川 亜有美(よしかわ あゆみ)さん

2017年入社。切手デザイナーとして、4年強で20数種の切手デザインを担当。

▶Lesson.1 求められるのはコンセプト構築力! 産みの苦しみと喜びを味わえる切手デザイナーという仕事

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2021年時点で、日本に8名しかいない切手デザイナー。そのお一人である吉川さんは、2017年3月の切手デザイナー募集(募集人数1名!)に応募し、見事採用。切手デザイナーとしてのキャリアをスタートされました。切手好きが高じて応募されたのかと思いきや、応募するまでは特に注目したことはなかったそうで......。

吉川:「日本郵便が切手デザイナーを募集中」というニュースがSNS上で話題になっているのを見た友人が「絵を描くのも好きだし、応募してみたら」と連絡してくれたことが応募のきっかけです。そこから、切手デザイナーについて調べはじめ、自らミニチュアを作って切手のデザインをされた星山 理佳(ほしやまあやか)さんの記事を見つけたんです。私も料理や手芸、陶芸といった細かなものづくりが好きだったので、だんだん関心が湧き、チャレンジしてみたいと思ったことを覚えています。

切手デザイナーの主な仕事は、特殊切手のデザイン。年間40種類ほど発行される特殊切手のデザインを8名のデザイナーで分担し、プランナーと二人三脚でコンセプト決めから校了までを担います。

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吉川:切手デザインには、切手のテーマから「コンセプトを組み立てる力」が一番必要だと感じます。デザインに入る前にまずテーマについて学び、取材をして理解を深めます。そこで得た知見をもとに「自分は何を伝えたいのか」を考え抜いてコンセプトを固める。この時間が一番苦しいです。

各デザイナーがどんな案件を担当するかの決まりはありませんが、「〇〇周年記念」といった特殊切手のデザインには歴史的背景などの深い知識が必要なので、ベテランのデザイナーが担当することが多くなります。私は、前職で化粧品パッケージなどをデザインしていたこともあり、「季節のグリーティング」など、切手を手に取るお客さまの気持ちが華やぐような案件を主に担当しています。

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切手のデザインを始めてから季節感を意識することが増え、スーパーに並ぶ食材から旬を感じたり、季節ごとの祭事やイベントにも敏感になったりしました。展覧会や気に入っているお店に足を運び、大好きな民芸品や器の世界に浸る時間も大切にしています。よい物を見て、触れることで感性が磨かれる......と信じています。

【ここがポイント!】

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8名のデザイナーが、プランナーと共同制作
デザイナーとプランナーが二人三脚で、年間40種類の特殊切手のデザインを制作します。重要なコンセプトを決めるには現地取材が必須とのことで、見て、触れて「伝えたいこと」をとことん考え抜いています。

▶Lesson.2 画材も発想もデザイナー次第、制作軸は「コンセプトが伝わるかどうか」

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切手の制作プロセスは、印刷し、郵便局へ届ける時間も含めて約1年という長期にわたります。まずは、年間の「切手発行計画」発表後に担当デザイナーの割振りがあり、9カ月前にはコンセプトが決定、7カ月前に「切手発行会議」が開かれてデザイン決定という流れだそうです。会議での審議はどのくらい厳しいのでしょうか。

吉川:切手発行会議での審議のポイントは「コンセプトが伝わってくるかどうか」。会議は毎回緊張しますが、デザイナーが考え抜いてきた表現が、その場でガラッとひっくり返されるなんてことはありません。年間のスケジュールも自分で組めて、デザインに取り組む時間もしっかりとれます。のびのび表現できる環境を作っていただけています。

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一方、「このテーマならこんな絵を描いて」といった指定や、表現技法(水彩・パソコン・写真などの手段)の決まりはありません。コンセプトをどう表現するかは自分で考えなければならないので、その点では創造性が問われる気がします。私はパソコンで絵を描くことが多いのですが、時には水彩で手描きすることもありますし、写真を使ったデザインが得意なデザイナーさんもいます。

今も昔も、季節ごとのご挨拶を伝えてきた手紙。手紙をいろどる切手も、花モチーフや季節のグリーティングシリーズの人気が高いそうです。近年は、受けとった人がほっこりする食べ物モチーフも話題です。吉川さんが「特に印象的だった」と語るお仕事も、おいしそうな名古屋メシが並ぶ切手シート「おいしいにっぽんシリーズ第3集 名古屋」でした。

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吉川:第3集は、地元愛が強い名古屋の方に好評で、SNSでも反響があり思い出に残っています。このシリーズがきっかけで、「久々に味噌煮込みうどん食べたいな」とか、「『ころきしめん』の『ころ』って何!?」のような会話が生まれていたらうれしいです。

さらに、このシリーズは長年愛読していた雑誌『BRUTUS』のライターさんと食べ歩いた名古屋メシ、フードコーディネーターの方に作っていただいた名古屋名物をもとに作画しました。切手シートを見るたびにおいしさがよみがえり、私も幸せな気持ちになるシリーズです(笑)。

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食べ物シリーズ以外では、箔やエンボス、ホログラムなどの特殊加工がされている切手も人気がありますね。切手・葉書室では、コスト面を意識しながらも、表現を際立たせる加工技術を積極的に取り入れています。デザインを担当した2022年の年賀切手(寄付金・お年玉付)は紙幣の印刷で有名な国立印刷局でグラビア印刷をしているので、金色の発色がとてもきれいに出ています。

▶Lesson.3 元日挨拶状のイラスト制作!目指したのは、前に出すぎない真面目さと味わいのあるデザイン

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2022年の元日挨拶状の片面は、日本郵便CM「手紙の部屋」をモチーフとして作成されたデザイン、もう片面は日本郵政の増田寬也社長からの新年のご挨拶と、丸型ポストのイラストとなっています。今回丸型ポストのイラスト部分を担当したのが吉川さん。どのような経緯で描くことになったのでしょうか?

吉川:ある日、切手・葉書室長から「元日挨拶状にイラストを描く仕事がありますよ」と告知があったんです。毎年、元旦に家族で目にしてきた挨拶状。ぜひ描いてみたいと立候補しました。
イラストのモチーフは「干支でも、郵便にまつわるものでもよい」とのことでした。候補が絞り切れなかったので、昔の郵便配達員さんが使っていたバッグや帽子など、懐かしさを感じるモチーフを選んで描いていきました。採用されたのは丸型ポストのイラスト。人が挨拶しているような雰囲気があったので、個人的にも挨拶状に似合っているかなと思います。前に出すぎない真面目な雰囲気を保ちつつ、どこか味わいがある印象に仕上げました。

挨拶文の構成とイラスト制作が同時に進められたため、挨拶文の内容や文字の雰囲気がつかめず、自分のイラストがメッセージに合うかどうか心配でした。制作期間も普段よりタイトでどうなるか......と思っていましたが、温かな雰囲気の挨拶状になってほっとしています。校了までのプロセスをプランナーとほぼ二人三脚で進む切手と違い、元日挨拶状のイラスト制作にはディレクションチームをはじめとした多くの方が関わっていて、チームで一つのものを創りあげる感覚を味わえました。

【ここがポイント!】

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年に一度の大切な日に配られるものということもあり、デザイナー、プランナーだけでなく、多くの人が関わりました。

▶Lesson.4 学び、楽しみながら、デザインを通して誰かの想いをつなぎ続けたい

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切手は、誰もが普段から使い、目にするもの。だからこそ、一目見てポジティブな印象を受けるデザインを心がけていると語る吉川さん。切手を購入して手紙を出す人、そして手紙を受け取る人、どちらも満たされ、笑顔になるような表現をしたいと想いを語ります。

吉川:シンプルな封筒であっても、思わず目を惹く特殊切手が貼られていると、お手紙に特別感が出ますよね。わざわざ郵便局やWebサイトで切手を選んで買い求め、手紙を送る。そんな送り主の一連の行動は「あの人に特別なものを贈りたい」という想いから生まれていると思うんです。
わたしたちがデザインした特殊切手が、その温かな想いを伝える手段になればうれしい。キレイ、かわいい、おどろく、なごむ、そんな個性を持つ切手が、お手紙を交わす方々の「想いのつなぎ目」になっていれば幸せですね。

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4年間、特殊切手のデザインに携わったことで、テーマについて深く考え、感じ、コンセプトを生み出す力は少しずつ身についてきたと思います。この先は、対象への深い学びが求められる重要な記念行事などのデザインも担当できるように知見を広げていきたいです。

また、コンセプトをもっとうまく表現できるように画力を磨きたいです。美大受験でデッサンに明け暮れて以来忘れていた「描くことは楽しい」という感覚が、切手デザインの仕事を通して戻ってきたんです(笑)。童心に返って描くことを楽しみながら、表現力を高めていける気がしています。その力をもとに、元日挨拶状で経験できた「イラストに特化した仕事」にも、ぜひ挑戦したいですね。

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▶舞台裏で見つけたもの

  • 切手デザインに必要なコンセプトづくりには取材や勉強が欠かせない!
  • 8名の切手デザイナーが、それぞれの得意な表現方法やジャンルで創造性を発揮している!
  • アイディアのみなもとは、よいもの、好きな物事にひたること!
  • 特殊切手で届く手紙は、送り主の想いが伝わる。その想いをつなぐのが切手デザイン!

※撮影時のみマスクを外しています

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