街とつながるJP百景Vol.7 タブレット端末で遠隔医療支援! 地域医療の一翼を担う愛媛県宇和海郵便局
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日本全国にある約2万4,000もの郵便局。それぞれの郵便局の景色は、その街で働く人、暮らす人とのつながりによって作られています。本企画では、地域と協力しながら、ユニークな取り組みをして独特の景色を作りだしている郵便局をピックアップ。第7回は、愛媛県宇和島市蒋淵(こもぶち) 宇和海(うわうみ)郵便局を紹介します。
※本記事で取り上げている、日本郵便が提供する「スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービス」および「みまもり訪問サービス」を 活用した、愛媛県宇和島市の「スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービスの提供およびタブレット端末を活用した遠隔医療支援に関する事業」 がDigi田甲子園2023で内閣総理大臣賞(審査委員会選考枠)を受賞しました!
郵便局社員が遠隔医療支援!? 地域のニーズに応える挑戦
愛媛県の南部に位置する宇和島市。宇和海(うわかい)と呼ばれる豊穣な海を擁すこの町は水産業が盛んで、特にタイやブリ、真珠などの養殖業は、宇和島市の基幹産業とも位置づけられています。今回訪れた蒋淵は、そんな宇和海に突き出た蒋淵半島の先端部に位置するのどかな漁村。
港を歩いてみると、海に向かっていくつも伸びた桟橋に漁師さんらしき人影が数名認められますが、そのほかに人通りはほとんどなく、波の寄せる音だけが入江に静かに響いています。
海に面して立ち並ぶ立派な民家のなかに、宇和海郵便局はあります。今回、お話を伺った宇和海郵便局局長の清家 裕二(せいけ ゆうじ)さん。
東京に進学し商社に勤めたのち、21年前に蒋淵にUターンして局長に就任した清家さん。しかし、帰ってきて目の当たりにしたのは活気の失われた故郷の姿でした。
「ここ蒋淵も、かつて養殖業の最盛期には"真珠御殿"や"ハマチ御殿"と呼ばれる家が建つほどの好景気に沸きました。しかし少子高齢化の波にはあらがえません。私が子どものころは、人口が630人ぐらいだったんですけど、20年前には400人、現在は220人ほどに減ってしまいました。地区の小学生の数もわずか3人です」(清家さん)
少子高齢化という地域の課題に直面した清家さん。
この少子高齢化が進むことで、宇和島市においては、地域医療、特にへき地・離島の医療が大きな課題となっているそうです。少子高齢化による人材不足によって、医師・看護師ともに欠員状態が続いており、さらには医師・看護師の高齢化等の退職により、今後ますます厳しい状況が予想されるとのこと。
そうした課題を宇和島市が抱えるなか、2022年に、日本郵便が宇和島市においてスタートさせたのが「スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービスの提供およびタブレット端末を活用した遠隔医療支援に関する事業」です。これは日本郵便が包括連携協定を締結している宇和島市から受託した事業で、郵便局をハブとして、ICTを活用した高齢者の見守りと、遠隔医療をサポートする取り組みです。
清家さんは、この事業に宇和島市への提案段階から参加しているそうです。
「当初は、日本郵便が提供している既存の『スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービス』※を提案させていただいたのですが、宇和島市さんから、通常のみまもりサービスにプラスして、市が取り組むオンライン診療・オンライン服薬指導のサポートもしてもらうことはできないか?という話をいただきました。それでは、いっしょに新しいサービスを検討しましょうと、そこからは日本郵便の本社も交えて新たな仕組みを作っていきました」(清家さん)
※ 日本郵便で独自開発・管理するWebアプリケーションおよびAlexaスキルが、利用者のご自宅に設置したスマートスピーカー(Amazon Echo Showシリーズ)を通じ、生活状況の確認や、ご家族との遠隔コミュニケーションをサポートするサービス。
そうしてできあがったのが、宇和島市におけるタブレット端末を活用した遠隔医療支援等のサービスの仕組みです。
まず、宇和島市から、タブレット端末を活用した遠隔医療支援と併せて、通常のスマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービスも受託することで、サービスを利用されているお客さまの家にスマートスピーカーを設置するとともに、郵便局社員が月1回の対面による見守りを行います。そして、見守りの際に、郵便局社員は市が遠隔医療用として支給するタブレット端末を持参し、通常のみまもりサービスの内容としてお客さまに体調、食事、睡眠、服薬などの生活状況をお聞きするとともに、お客さまから要望があれば、オンライン診療のサポートも行います。
オンライン診療では、郵便局社員がタブレット端末の操作をサポートしながら、タブレットで医師とビデオ通話をつなぎ、画面越しに診療を実施。その結果に基づき医師が処方箋を調剤薬局に送信し、続いてビデオ通話で薬剤師から服薬の指導を受けます。薬は後日、郵便局がお客さまにお届けします。
郵便局が届けるサービスだからこそ、安心してご利用いただける
現在、宇和海郵便局ではご高齢の2人のお客さまを担当しており、それぞれ月1回、対面での見守りやオンライン診療のサポートを行っています。お客さまからどのような反応をいただいているのか、実際にお客さまの家を訪問している宇和海郵便局の細川 優之介(ほそかわ ゆうのすけ)さんにお話を伺いました。
「最初のうちは、タブレットという見慣れないものに抵抗があるのか、『本当にいいサービスなのか?』と聞かれることもあったんですけど(笑)、訪問を重ねるうちにスマートスピーカーやタブレットをどんどん使いこなされていきました。特にビデオ通話の機能でお子さんやお孫さんとも会話ができることが好評で、『(子や孫が)宇和島市中心部に住んでいて、蒋淵に帰省するときにしか会えなかったから、大きい画面で顔を見ながら定期的に話せるのがうれしいよ』と喜んでいただけたときは、すごくやりがいを感じました。
オンライン診療も便利ですよね。画面越しに診療を受けられるだけでなく、薬もレターパックで届くので、外出する必要がありません。お医者さまからも、対面と変わらないような感じで診療ができるし、郵便局の人が患者さんの横でサポートしてくれるから安心だ、という声をいただいています」(細川さん)
また、郵便局がみまもりサービスを担うメリットを、清家さんは次のように説明します。
「全然知らない人を家に上げるのは抵抗があると思います。また、体が不自由だから家を綺麗にできない(だから家のなかを見られるのが恥ずかしい)という方もいらっしゃいます。郵便局社員は普段から顔を合わせていますし、人柄もわかっていただいているので、そういった抵抗も少ないようです。私たちが見守りや遠隔医療のサービスを担うことで、『郵便局の人がやってくれるんだ』という安心感は絶対あると思うんですよ」(清家さん)
デジタルの利便性もさることながら、対面だからこそ得られる安心感もあります。そういった意味では、デジタルとアナログのハイブリッドな高齢者向けサービスを効果的に運用できるのも、郵便局の大きな強みと言えるのかもしれません。
行政と連携して、地域の人々に切れ目のない支援を行っていきたい
サービスを始めてからおよそ1年が経過。その成果や今後の展望について、宇和島市の担当者さまからコメントをいただきました。
「郵便局さんは、拠点数の多さ、教育された社員というリソースがあり、連携の効果を感じています。また今回の取り組みに関しても、導入当初は積極的でなかった利用者の方も、慣れるに従って喜んでいただけていますので、一定の成果があったと思っています。一方で、サービスを運用していくなかに、利用者からの問い合わせなどへの対応をマニュアル化する必要性、サービス利用の推進など、今後の課題もいくつか見えてきています。今後はそれらの課題の解決を目指すとともに、今回の取り組みが成功事例となり、遠隔医療にご理解・ご協力いただける医療従事者さまが増えていくことを期待しています」(宇和島市職員)
最後に清家さんに、今回の遠隔医療支援のサービスや、地域と連携した郵便局の取り組みについて、その展望を語っていただきました。
「宇和島市の方と社会福祉についてお話をしていると、行政サービスの切れ目をなくしていきたい、という話をよく聞きます。現代は医療や介護など、人々が生活を送るうえでの課題がどんどん複雑化していて、多様化している支援ニーズと、それに対するサービスとの間にズレが生じてきているそうなんです。かつては、このズレや切れ目を埋めていく支援の受け皿として地域社会が機能していました。その機能が弱まっている今こそ、地域のハブとして存在する郵便局が一翼を担っていけるのではと思っています」(清家さん)
これからもデジタルもうまく活用しながら、シームレスな支援をしていきたいと語る清家さん。誰もが安心して暮らせる地域社会の実現に向け、郵便局の挑戦はこれからも続いていきます。