私のオンとオフ スイッチインタビュー 芸歴40年の琉球舞踊家! 沖縄の伝統芸能を引き継ぐ郵便局社員の熱きエンターテイナー魂

琉球舞踊の芸歴40年 踊って走って想いを届ける郵便局員

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約24,000ある郵便局をはじめ、全国で働く日本郵政グループの社員。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。今回話を聞いたのは、沖縄県宜野湾市の宜野湾郵便局に勤務する東江 裕吉(あがりえ ゆうきち)さん。郵便局で集荷業務を担当しながら、8歳のときから続けている沖縄の伝統芸能「琉球舞踊」の担い手として舞台に立ち続けています。その活躍の様子とオンとオフの意外な共通点に迫ります。

東江 裕吉(あがりえ ゆうきち)さん

宜野湾郵便局 アソシエイト

東江 裕吉(あがりえ ゆうきち)さん

沖縄県出身。2007年、入社。以来、宜野湾郵便局で一貫して集荷の仕事に従事している。

郵便局とは縁がある? 祖父も曽祖父も郵便局で働いていた

――普段の業務内容を教えてください。

東江:集荷の仕事をメインに行っています。ポスト取集のほか、取引先の企業に毎日定時に伺う定時集荷、個別の依頼に基づいて集荷に伺う随時集荷などがあります。

勤務風景

――勤務エリアである宜野湾市はどのような地域ですか。

東江:宜野湾市は米軍基地が中心にあって、そのまわりに生活圏が広がっているという町です。企業の本社や大学などがある関係で移住者も多く、県外や外国から来たお客さまがたくさんいらっしゃいます。おなじみさんもいる一方で、人の移り変わりも激しいというのが、この地域の特徴ですね。

――新規の方が多いと、お客さまとの関係性作りも一層重要になりそうですね。お仕事をするうえで、意識していることはありますか。

東江:お客さまの立場になって考え、最善のサービスを提供していくということを心がけています。集荷に行くエリアは決まっていますが、荷物の種類や、お客さまのご要望は変化するので、一日として同じ日はありません。お客さまの気持ちを察して、臨機応変に対応するようにしています。また、ときには難易度の高いご要望もありますが、そんなときにも、郵便局の仲間たちともいっしょに考えながら、お客さまに最善策を提案する。常に状況判断をしながら対応をとっていくという難しさもありますが、困難を乗り越えて荷物を適切に処理できたときは大きな達成感がありますね。

宜野湾郵便局
局内の様子

――東江さんが郵便局で働くことになったきっかけを教えてください。

東江:8歳のころから「琉球舞踊」にかかわるようになって、大学を卒業した後も、母校の沖縄県立芸術大学で非常勤講師として組踊(くみおどり:琉球舞踊と並ぶ沖縄の伝統芸能)を教えたり、国立劇場おきなわ(沖縄の伝統芸能を上演する劇場)の運営事務局で働いたりと、芸能関係の仕事をしていました。ただ、それだけでは経済的に苦しかったので、仕事を探していたところ、宜野湾郵便局社員の募集枠が一つ空いていることを知ったんです。ダメもとで応募したんですが、面接を担当した郵便局の方が私の舞台活動に関心を持ってくれまして。舞台活動に支障がないようにできる限り調整するからと、採用していただきました。

東江さん

――採用のときから職場で舞台活動に対する理解があったんですね。

東江:実は後から知ったんですが、私の祖父も曽祖父も郵便局で働いていたことがあったようで、今ではこれも縁だったのかなと感じています。

歌や踊りから沖縄の「匂い」が漂ってくることも......。子どもながら衝撃を受けた伝統芸能「琉球舞踊」

――「琉球舞踊」とは、どういった芸能なのでしょうか。

琉球舞踊の写真

東江琉球王朝の時代に開花した、約300年の歴史がある芸能です。もともとは中国からの使者を招いたときの宴の催しとして準備され、琉球王国の士族たちによって継承されてきました。その後、明治時代の王国解体を経て、担い手である士族たちは失業。生計を立てるために芝居小屋で庶民に向けて芸を披露するようになり、現在も続く「琉球舞踊」「沖縄芝居」などの芸能につながっていきました。

琉球舞踊

――東江さんが8歳という若さで、琉球舞踊にかかわるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

東江:踊りが好きだった母親に、なかば無理矢理、道場(踊りの稽古をする場所)に連れていかれたのがきっかけでした(笑)。もともとは伝統芸能にまったく興味がなくて、沖縄の音楽を聴くことすらしなかったのですが、その道場での踊りを見て衝撃を受けました。マジックを見せられているかのようなすごい動きで、子どもながらにすばらしいなと、こんな踊りを自分でも踊ってみたいと思ったんです。

――子どもも引き込まれる踊りというのはすごいですね。

東江:例えば琉球舞踊には農作業の風景をモチーフにした演目もあるのですが、踊りや歌のなかに、作業の風景だけでなく、風の動きだとか、作業のなかで感じられる匂いなんかも織り込んでいきます。そういった要素をどれだけ踊りに落とし込めるかは、舞踊家の腕前次第ですが、踊りを見ていたら本当にその「匂い」が漂ってくるような感覚に陥ることもあるんですよ。

沖縄の風景
沖縄の風景

――東江さんは踊るときに、どういったことを意識していますか。

琉球舞踊の写真

東江独りよがりにならないということですね。「自分がよければいいや」という感覚では、見ている人には何も伝わりません。踊りながらもちょっと俯瞰(ふかん)した目でお客さま反応や自分の動きをチェックして、顔の角度や目線の高さ、間の取り方などを調整していきます。どうしたらお客さまが喜んでくれるのか、びっくりしてくれるのか、ということは常に考えています。

オンもオフもお客さま目線を活動の軸に据え、真剣に取り組む。それが両立の秘けつ

――年間でどれくらいの回数、舞台に立たれていますか。

東江:月でいうと約3公演、年間で30公演くらいはありますね。県内での公演はもちろん、日本国内の節目となる行事に出演したり、ときには皇族の方にお見せするような場面もあったりします。コロナ禍で少なくなってしまいましたが、海外公演も以前は多くありました。

――稽古はどれくらいの頻度でされていますか。

稽古の様子

東江:定例の稽古は週に2回ですが、舞台に向けた稽古もあるので、今はほぼ毎日稽古が入っています。平日は仕事が終わり、だいたい夜7時から稽古を開始。複数の公演が重なると、1日に2〜3回の稽古が入ることもあります。休日なら、昼から夜まで10時間くらい稽古をしていることもありますね。

――それだけ公演や稽古が多いと、郵便局の仕事との両立は大変ではないですか?

東江:そうですね。ただありがたいことに、何事も真剣に取り組んでいると、まわりの人が助け舟を出してくれるんですよね。シフトの調整に悩んでいても、職場の皆さんが自然と集まってきて、「ああしよう」「こうしよう」とアイディアを出してくれるので、本当に助かっています。

また、舞台の台本は常に持ち歩いて、仕事の休憩時間に読み返したり、セリフをそらんじてみたりして、稽古以外の時間にも練習をするようにしています。

勤務風景
台本
東江さんがいつも持ち歩いているという台本には、所々に書き込みも

――琉球舞踊の経験と、郵便局の仕事で共通する部分、またはそれぞれの経験がお互いにいい影響を与え合うことはありますか。

東江どちらも、「人と人とのかかわり」のなかで取り組んでいくものという点では共通しています。郵便局の仕事では、お客さまとのかかわりのなかで、お客さま目線に立ってサービスを提供していきます。琉球舞踊でも、表舞台に立つ仕事ではあるのですが、それは上から目線ではなく、お客さまの目線に立って、どうしたら感動してくれるのか、常に考えながら踊っています。

指導を受けながら、舞台稽古をする東江さん(右)
指導を受けながら、舞台稽古をする東江さん(右)

また、体の動かし方という点では、舞踊の経験が仕事に役立っていると思います。重い荷物を扱ううえで、体のどの部分をどう動かせば効率的に持ち上げたり、運んだりすることができるのか、「動きの流れを作る」という舞踊の考えは、仕事にも活きています。

――オン・オフ両立の極意があったら教えていただけますか。

東江どちらも真剣に、かつ責任感を持って取り組むことですね。舞踊と郵便局の仕事を両立することは簡単なことではないですが、先ほどお話ししたとおり、やはりどちらも真剣に取り組んでいれば、その想いに共鳴してサポートしてくれる人が出てくるものです。また、いくら真剣であっても中途半端に投げ出してしまっては元も子もありません。諦めずに最後まで責任を持って取り組む「責任感」も両立のためには大事です。

――オン・オフ、それぞれで目指していきたいことはありますか。

東江:人材育成、後進育成に取り組んでいきたいです。郵便局の仕事では、これまでに培った知見を後輩たちに伝えていきたいですし、琉球舞踊では担い手不足という課題の解決に貢献していけたらと思います。実は地域の子どもたちに無料で組踊を教えるという活動をすでに十数年間続けていまして、活動初期に教えていた子どもたちが高校を卒業する年齢となり、芸能コンクールに出場するという子も出てきています。

東江さん

また、一表現者としても、日々舞踊に取り組んでいて生まれてくる新しいアイディアがたくさんありますので、いただける機会のなかで、そのアイディアをどんどん実践していけたらと思います。

オン・オフ両立の極意 オンもオフも真剣に取り組むこと。そうすれば、まわりの人がサポートしてくれるはず。東江 裕吉

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