私のオンとオフ スイッチインタビュー 仕事をしながら東京藝術大学の学生に! 尺八奏者として和楽器の魅力を伝える郵便局社員
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約24,000ある郵便局をはじめ、全国で働く日本郵政グループの社員。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。
今回話を聞いたのは、大阪府の河内長野本町郵便局に勤務する藤岡 秀明(ふじおか ひであき)さん。窓口業務を担当する一方、尺八奏者として活躍しています。その活躍の様子とオンとオフの意外な共通点に迫ります。
河内長野本町郵便局 主任
藤岡 秀明(ふじおか ひであき)さん
2010年、郵便事業株式会社(当時)に入社。その後、郵便局株式会社(当時)に入社し、2024年4月から現職。プライベートでは、2019年、東京藝術大学音楽学部・別科邦楽専修尺八(琴古流)を修了。尺八奏者として演奏活動に取り組んでいる。
幅広いお客さまに、わかりやすく伝える接客を心がけて
――まず、入社のきっかけを教えてください。
藤岡:実家のすぐ近くに郵便局があって、子どものころから手紙を出しに行くなど郵便局を日常的に使っていました。郵便局の皆さんにやさしくしてもらった記憶もあります。求人募集を見て、そんな郵便局で働きたいと思って応募しました。
――普段はどのようなお仕事をされていますか。また、藤岡さんが働く河内長野本町郵便局についても教えてください。
藤岡:主に窓口で、郵便と貯金、保険の取り扱い全般を担当しています。河内長野本町郵便局は、今年の春に転勤してきたばかりですが、自分が中高生のときに郵便局からも近い河内長野駅を通学に使っていたので、すごく懐かしい土地です。当時の先生が、郵便物を出しに来たこともあります(笑)。
――仕事をするうえで大切にしていることはなんですか。
藤岡:河内長野本町郵便局は住宅街にあるので、年配の方から若い方、お子さん連れまで、いろいろなお客さまがいらっしゃいます。商品のご説明をするときなどは言い回しを工夫して、わかりやすくお話しすることを心がけています。
――藤岡さんから見た郵便局の魅力はどんなところですか。
藤岡:郵便物はもちろん、保険や貯金、国債やNISAなども含めて幅広い商品を扱っているところですね。足を運べば、郵便局だけで完結し得る総合力が魅力だと思います。
――仕事ではどんなところにやりがいや魅力を感じますか。
藤岡:さまざまな商品があるので、社会基盤を維持している部分としての誇りを感じます。郵便局だけで完結することも多い環境だからこそ、お客さまが期待するものを的確にご提案できるようにと心がけていて、それがやりがいにもつながっています。
人生経験を活かして「プロよりうまいアマになる」!
――プライベートでは尺八奏者として音楽活動をされていますが、尺八を始めたきっかけはなんでしたか。
藤岡:10歳のころに実家がリフォームをしたんですが、そのときの大工の棟梁さんが休憩時間に尺八を吹いていたんです。それが尺八との出合いでした。
――大工さんがきっかけだったとは驚きです。それからは自分でも吹いてみようと思ったんですか。
藤岡:はい。自分も父も尺八に興味を持って、2人で尺八を買ってさっそく始めました。音を鳴らすこと自体はすぐにできましたが、やはり音楽にするのはなかなか難しくて、近くの先生のところに通って習い始めたんです。10歳からなので、30年間ほど続けています。
――30年間とはすごいですね! 長年続けている藤岡さんにとって尺八の魅力はどんなところですか。
藤岡:和楽器全般に言えますが、音量を上げる作業がすごく難しくて、だからこそできたときには達成感があります。段階的にステップアップしていくのが実感できるのは大きな魅力ですね。
――郵便局での仕事をしながら東京藝術大学の別科にも通われ、学びを深めたそうですね。
藤岡:はい。尺八の先生の推薦をいただき、試験を受けて入学しました。試験は実技のみの一発勝負です。試験官は人間国宝の方たちばかりで、これまでのどの舞台よりも緊張したのを覚えています。
――働きながら東京の大学へ通うのは仕事の調整も大変そうですね。
藤岡:当時は、今とは別の郵便局に勤務していましたが、年休を活用して大学に通わせてもらいました。
――どのようなスケジュールだったんですか。
藤岡:授業がある日は、大阪から東京まで飛行機で通っていました。早朝に起きて大学でレッスンを受けて、自宅に戻るのは夜遅くという生活です。ほかの日は通常どおり郵便局で勤務して、週末は舞台での演奏やリハーサルをしていたので、なかなか休みがなかったですね。
――ハードな毎日だったんですね。
藤岡:はい。でもそれと同時に、貴重な経験を得ることができました。人間国宝など"本物"の先生たちや仲間と出会えましたし、刺激もたくさん受けました。東京藝術大学には、在学中にデビューする同級生もいるなどびっくりするくらい上手な人がたくさんいるんです。井の中の蛙(かわず)といいますか、大阪では「うまい、うまい」と言われていたんですが、大学に通い始めて、自分は大したことがないと気づきました。一方で、彼らと同じように受験して東京藝術大学に入れたのだから、練習を重ねて追いつきたいという想いもあり、それは今でも変わりません。
――尺八のプロとしてやっていこうとは思わなかったんですか。
藤岡:会社員をしながらだからこそ、できる演奏があると思っています。あまりうまく言えないですが、人生で経験したことを音楽に活かすというか。だから「プロよりうまいアマになる」というのが私の座右の銘というか、意識している部分です。
――最近の音楽活動を教えてください。
藤岡:大学で知り合った仲間といっしょに、自主公演の演奏会でパフォーマンスをしています。箏(こと)と三絃(さんげん)、尺八の3名です。企画の立ち上げから自分たちで行っていて、案内のお手紙を書いたり、チラシを作って楽器屋さんに置いてもらったりしています。これからも定期的に演奏会を続けていこうと思っています。
――音楽活動のやりがいや醍醐味をどんなところに感じますか。
藤岡:特に江戸時代の曲が好きでずっと演奏しているのですが、長く受け継がれてきた曲を演奏することは、未来につなげることだと感じています。私を含め、人から人へ伝統芸能を引き継ぎ、つなげていけるのはすごいことだと思います。
――次世代に伝統芸能をつないでいくという使命感があるのですね。
藤岡:そうですね。私が20代のころ、先生といっしょに光明皇后の1250年遠忌の法要に出演したことがあるんです。次は1300年遠忌になるわけですが、当時の尺八の先生に「次に出られるのは君だけや」と言われたときに、そうやって歴史はつながっていくのだなと実感しました。自分自身もそうですが、1300年遠忌に出演してくれる人を育てないといけないですね。
――そういう想いもあって、若い方への演奏指導もされているそうですね。
藤岡:学生のクラブで指導をしていましたし、今は、尺八奏者の方のお孫さんにも自宅で教えています。技術的なことよりも楽しむことを大事にしています。うまくなるのも大事ですが、楽しんで尺八を続けられるようにという想いで教えています。
オンとオフでスイッチを切り替えて、仕事にも尺八にも集中!
――仕事に尺八の活動にとお忙しい毎日だと思いますが、両立させるのに大変なことはありますか。
藤岡:例えば、前日に遅くまで音楽活動をしていたとしても、それはお客さまには関係のないことです。窓口に立ったら切り替えを大切にして、集中して仕事をするようにしています。
――オンとオフでは、どんなふうにスイッチを切り替えていますか。
藤岡:通勤の移動時間には、経済ニュースを見るなどして仕事モードに切り替えています。逆に、仕事を終えて自宅に戻るときには、週末にリハーサルをする予定の音源を聴くなどしていますね。仕事も尺八の活動も、事前準備の段階で気持ちのスイッチを切り替えています。
――なるほど、事前準備の時間がよい切り替えになっているんですね。仕事と尺八の活動の両方で意識していることはありますか。
藤岡:独りよがりにならないようにしています。仕事でも尺八でも、そこは自分ができる技術を披露するだけの場ではありません。どちらも人に伝えることが重要であり、その大切さは共通だと思います。
いつか前島記念館での演奏会の実現を夢見て
――藤岡さんが描いている将来の目標を教えてください。まずはお仕事の方からいかがでしょうか。
藤岡:将来、局長になることが仕事での目標です。まずは一つ上の役職に就くことを目指し、そして、一つ一つステップアップしていって、最終的には局長を目指します。
――尺八奏者としての目標も教えてください。
藤岡:1円切手の肖像としても知られる前島 密(まえじま ひそか)は、趣味の一つが尺八でした。新潟県にある前島記念館には、尺八も展示されていると聞いています。その尺八をこの目で見てみたいですし、できることであれば、いつか前島記念館で演奏会をしてみたいですね!
――それは素敵な目標ですね! 最後に、藤岡さんのようにオンとオフの両立を目指している方へ向けて、メッセージやアドバイスをお聞かせください。
藤岡:仕事があるなかでも、自分が興味を持ったことから離れずに、週に1日2日でも積み重ねること。それが、興味を維持して情熱を失わないことにつながると思います。