エモい郵便局図鑑 No.0001 上恩方郵便局(東京都)
1871年(明治4年)、「日本近代郵便の父」と呼ばれる前島 密(まえじま ひそか)によって郵便事業は開始されました。それから時は流れて150年経った現代、日本各地には激動の時代を見守ってきた郵便局が今でもひっそり残っています。ある人はそんな歴史ある郵便局を、畏敬の念をこめて「エモい郵便局」と言うんだとか――。
ここでは、郵便局のノスタルジックな魅力に取り憑かれたフォトグラファー・ライターが日本各地の「エモい郵便局」を紹介していきます。
昔ながらの田園風景が楽しめる陣馬街道沿い
(東京都八王子市上恩方町2135)
■開局
1938年(昭和13年)
■概要
開局して以降、建て直しをせず現役で営業を続けている昭和レトロな郵便局
■歴史
現局長・山元 光浩(やまもと みつひろ)さんから遡ること4代前の局長が開局。淡いミントグリーンのペンキで塗られた板張りの洋館建築は、当時多摩地区で流行のデザインだったのだそう。平成初期ごろまで同様の建物が近隣にいくつか見られたが、2021年現在も開局当時のまま現存し、かつ営業中の局舎は都内でも希少
■名物
上恩方町のシンボルである陣馬山頂の白馬、夕焼け小焼けの歌碑、陣場高原から望む富士の山を描いた風景入通信日付印(以降、風景印という。)
■交通アクセス
JR高尾駅下車後、北口から陣馬高原行きの西東京バスに乗り換え。バスに揺られながら30分ほど田園風景を楽しんだ後、「関場」で下車。その後2分ほど歩き、自然に溶け込んだミントグリーンの洋館が上恩方郵便局
目の前に広がる林には野生の猿やハクビシンが現れ、マスが釣れるという川には夏場は釣りを楽しむ人が訪れる。東京都八王子市にある上恩方郵便局は、そんな自然に囲まれて営業をしている。
郵便局の名物は、ここでしか押してもらえない風景印。風景印には、上恩方町のシンボルである陣馬山の頂上にそびえ立つ白馬の像、上恩方町出身の詩人・中村雨紅の代表作、「夕焼け小焼け」の詩が刻まれた歌碑、そして陣馬高原から見た富士の山が描かれている。この風景印を目当てに上恩方郵便局を訪れる人も多いと言う。
※風景印は、第二種郵便料金額以上(63円以上(2022年1月現在))の切手を貼付した台紙およびはがきに押印されます。
「歴史の長い郵便局だからか、局所内には年代物の道具がいくつも置いてあるんです」
そう話すのは、2018年に赴任してきた局長の山元 光浩さんだ。
山元さんに案内されて局の中を回ると、逓信省時代のものと思われるプレートやはかり、電話機※が当時のまま残されていた。
※写真に掲載されているはかり、電話機、重り等の一部の道具や畳間などの窓口以外の部屋は、一般には公開しておりません。
昭和の面影は、道具以外にも見られる。郵便局の入り口に飾られた右書きの看板。横書きで左から右に書くことが一般的となったのは、第二次世界大戦終戦後だということを考えると、この郵便局が見てきた長い時間に思いを馳せずにはいられない。
このほかにも、身長の高い人だと頭をぶつけてしまう高さの入り口、ガラスで仕切られた窓口、電信業務のための宿直用に使用されていたと思われる広い畳間など、昭和の面影がいたるところに感じられる。
昭和初期から上恩方町を支えているこの郵便局には、近隣に住む住人以外にも、観光客も度々訪れる。ここに来た観光客は、レトロな局舎の撮影と局員とのおしゃべりを楽しんでいくそうだ。
「夏は登山やツーリングの途中で、冬は近くにキャンプ場があるので、そのついでに訪れる方が多くいらっしゃいます。山の中の郵便局なので、1日に訪れるお客さまはあまり多くありません。だからこそ、お客さま一人ひとりとじっくりお話しすることも多いですね。なかには、1時間ほどお話しされて帰る方もいらっしゃいます。ここが、訪れた人にとってホッとできる場所になるとうれしいですね」(山元さん)
辺りに生える木々の隙間から差し込む光で、ほんのりセピア色に輝く局舎のなか。
まるで昭和にタイムスリップしたかのように、ここにはなんだか懐かしく、ゆったりとした時間が流れている。上恩方郵便局に来たら風景印をもらいながら、歴史を感じてみて欲しい。
フォトグラファー:小川 遼
ライター:仲 奈々
企画・制作:CURBON
上恩方郵便局 局長
山元 光浩(やまもと みつひろ)さん
平成30年4月に上恩方郵便局に局長として着任。
※撮影時のみマスクを外しています
上恩方郵便局 局員
小山田 由美(おやまだ ゆみ)さん
平成16年2月に上恩方郵便局に配属。