エモい郵便局図鑑 No.0003 旧軽井沢郵便局(長野県)
1871年、「日本近代郵便の父」と呼ばれる前島 密(まえじま ひそか)によって郵便事業は開始されました。それから時は流れて150年経った現代、日本各地には激動の時代を見守ってきた郵便局が今でもひっそり残っています。ある人はそんな歴史ある郵便局を、畏敬の念をこめて「エモい郵便局」と言うんだとか――。
ここでは、郵便局のノスタルジックな魅力に取りつかれたフォトグラファー・ライターが日本各地の「エモい郵便局」を紹介していきます。
上皇上皇后両陛下も訪れた、自然と芸術が楽しめる軽井沢の名所・軽井沢タリアセン内
(長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉字中島261-1)
■開局
1911年
■概要
旧軽井沢から移築された郵便局舎。2008年に登録有形文化財(建造物)に指定
■歴史
旧軽井沢(軽井沢町大字軽井沢における旧軽井沢区およびその周辺区)に建てられたこの郵便局には、時の偉人、文化人が多く訪れた。閉局後、1971年に軽井沢観光会館として局舎を使用。1994年に老朽化のため解体後、軽井沢タリアセン内に移築され、現在は開局年にちなんで「明治四十四年館」と呼ばれている
■名物
ミントグリーンに塗られたドイツ下見板張で囲まれた外壁、シンメトリーな構成からできた洋風建築。旧三笠ホテルや軽井沢駅舎と並び、歴史的な公共建築物とされている
■交通アクセス
軽井沢駅を下車後、軽井沢町内循環バスもしくは西武バスに乗り換え。30分ほど軽井沢の豊かな自然を楽しんだら、右手に湖が見えてくる。「塩沢湖」駅で下車し、軽井沢タリアセンに入場したら、そこから徒歩5分ほどで旧軽井沢郵便局舎が現れる
おとぎ話に迷い込んだような、幻想的な世界。
旧軽井沢郵便局を初めて見た人は、きっとそう思う。軽井沢タリアセンに入園して歩くこと約5分、豊かな木々に囲まれて佇む洋館の出で立ちは、絵本の世界から飛び出してきたようだ。
1911年に建てられたこの郵便局は、近隣住人のほか、避暑地軽井沢を訪れた当時の総理大臣、経済人、文化人によく利用されていた。敷地内にあった局舎の案内板によると、川端 康成(かわばた やすなり)、室生 犀星(むろう さいせい)、堀 辰雄(ほり たつお)といった文豪たちもここを訪れていたそうだ。
2階建ての局舎は、現在1階をミュージアムショップ、2階を深沢紅子・野の花美術館として利用している。なかにはアンティーク調のランプやインテリア、ピアノが置かれており、外観と同様、まるでおとぎ話の国にいるようだ。
ピアノは帝国ホテルや自由学園明日館などを設計した、世界三大近代建築家のフランク・ロイド・ライト氏がデザインしたもの。機械仕掛けの自動演奏ができるのだそう。
局舎のなかから見る外の景色も幻想的で、今が令和であることを忘れてしまいそう。
老朽化による取り壊しの話しが出た際、 この歴史ある郵便局を守るべく、旧軽井沢地区の住民のみならず、細川 護熙(ほそかわ もりひろ)、鳩山由紀夫(はとやま ゆきお)、遠藤 周作(えんどう しゅうさく)といった多くの著名人が保存のため声を上げたという。
この局舎の周りには、アントニン・レーモンドの軽井沢・夏の家、有島 武郎(ありしま たけお)の別荘・浄月庵、堀 辰雄山荘、野上 弥生子(のがみ やえこ)書斎、旧朝吹山荘・睡鳩荘などの歴史的建築物が移築されており、当時の姿を見ることができる。
軽井沢に来たときは、ぜひこの地を訪ねてみてほしい。まるで100年前にタイムスリップしたような、穏やかで懐かしい時間を過ごせるだろう。
フォトグラファー:しふぉん
ライター:仲奈々
企画・制作:CURBON
フォトグラファー
しふぉん
佐賀出身、東京在住の写真家兼フリーカメラマン。
2018年夏にカメラを始め、ジャンルにこだわらず撮影している。
一貫して"誰が見ても気持ちのいい写真"をテーマとして、構図や色にこだわっている。
2021年12月、初の写真集『白日夢』(KADOKAWA)を出版。
エモい郵便局図鑑 No.0002 旧殿居郵便局(山口県)